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iPhoneは進化が止まった? それでもなお、色褪せない影響力。MagSafeはQi2として普及。Dynamic Islandは業界標準に。次はLiquid Glassも…?

著者: 牧野武文

iPhoneは進化が止まった? それでもなお、色褪せない影響力。MagSafeはQi2として普及。Dynamic Islandは業界標準に。次はLiquid Glassも…?

写真●黒田彰

MagSafe、Dynamic Island(ダイナミックアイランド)などiPhoneから始まった工夫が、ほかメーカーのスマホに広がっている。特にDynamic Islandは、iPhoneの“瑕”として揶揄されることもあり、各メーカーはピンホール、ディスプレイ下カメラなどの開発を急いでいた。

しかし、一転してDynamic Islandを採用するようになっている。iPhoneの影響力は少しも色褪せていない。

iPhoneは以前と変わらなぬ影響力を持っている。断言できる理由の1つは、MagSafe

「iPhoneは進化が止まっている」「スティーブ・ジョブズが生きていたら、今のiPhoneを…」というフレーズを、SNSなどでよく目にする。Apple好きの読者の皆さんは、複雑な気持ちになっていないだろうか。

しかし、ここ数年のiPhoneは「以前と変わらぬ影響力を持っている」と断言していいと思う。その最たるものがMagSafeだ。最初に登場したのは2006年のMacBook Pro。うっかりケーブルを引っ掛けてもコネクタがMacBook Proから外れるため、端子の損傷が起きづらい。

そして2020年には、iPhone 12シリーズの背面にワイヤレス充電対応のMagSafeが搭載された。一般的なワイヤレス充電では、置く位置が少しずれただけで充電に失敗する。しかし、MagSafeによりそのデメリットがなくなった。有線充電の頻度が減ると搭載ポートの劣化が起きづらく、抜き差しの手間がないというメリットもある。

さらに、貼り付けるタイプのモバイルバッテリが登場し、外出時の充電体験も変化した。磁石吸着するスマホリングやスタンドも有用だ。

MagSafeの優れた技術は、ワイヤレス充電規格Qiに組み込まれることとなり、現在「Qi2」として提供されている。Google Pixelシリーズが採用するワイヤレス充電機能「Pixelsnap」も、このQi2規格に準拠したものだ。今後、ほかのメーカーもMagSafeに類する機能を取り入れてくることになるだろう。

Google Pixelのマグネット式ワイヤレス充電「Google Pixelsnap」。MagSafeは標準規格Qi2に採用され、ほかメーカーにも広がっている。画像●Google




揶揄されたiPhoneの“ノッチ”。ピンホール化、ディスプレイへの埋め込みなど、各社は工夫するが…?

さらに大きな影響力を示したのが、2022年のiPhone 14 Proシリーズから採用されたDynamic Islandだ。

iPhoneの場合、フロントカメラだけでなくFace ID用のTrueDepthカメラがあるため、どうしてもディスプレイ部分を削らざるを得ない。これはディスプレイの領域を制限する欠点でしかなかった。

しかも、以前は上部フレームに接したノッチと呼ばれる形であり、非iPhoneユーザからからかわれる対象だった。私たちAppleユーザも、その件についてはあまり触れてほしくないような感覚があったと思う。

サムスンが2018年に行ったGrowing Upキャンペーンの映像。サムスンは、Appleのノッチを皮肉ったビデオを公開した。iPhone発売の行列に並ぶ人の髪型に注目。画像●YouTube

このノッチ問題を解決するには、カメラユニットを小型化して穴を小さくするのが常套手段だ。そして、中国のスマホメーカーの多くがピンホールを採用するようになった。

中にはスライドでカメラユニットが飛び出てくるギミックを使い、全面ディスプレイを実現したメーカーや、ディスプレイ下にカメラを埋め込む方法を模索したメーカーもある。ディスプレイのドットをいくつか抜いて透明にし、その下にカメラを入れるという方法だ。金網越しに写真を撮ると、焦点があたっていない金網はボケ、写真上は消えるのと同様に、ディスプレイ下にカメラを入れても写真は撮れる。ただし、画質は一定程度犠牲になる。

Xiaomi、サムスン、Google、ファーウェイ…。各社がDynamic Islandを模倣

一方、Appleは、ハードウェアによる解決ではなく、UI/UXによる解決を選んだ。一見ムダな領域を、「断片化された情報を表示するスペース」にするという逆転の発想だ。

面白いのは他社の反応だ。これまでハードウェアで解決しようとしてきたのに、一転してDynamic Islandを採用し始めたのだ。Xiaomiは、多くの機種でカメラ穴はピンホールとなり小さくなっていたが、Dynamic Islandをわざわざ採用した。名称は「Super Island(スーパーアイランド)」と変えているが、基本的には同じものだ。

Xiaomiは最新OS「HyperOS 3」で、ダイナミックアイランドと類似したUI/UXを採用した。画像●Xiaomi

ただし、ただの真似ではなく独自の工夫もある。たとえば、Super Islandにコンテンツが表示されているとき、Super Island自体をドラッグしてアプリアイコンやアプリ画面にドロップすると、コンテンツ内容をペーストできる。

このほか、ファーウェイ、OPPO、vivo、オナーなど中国系メーカーはほぼ全社がDynamic Islandと類似したUI/UXを搭載した。それだけではない。あの、ノッチを笑いの対象にしたサムスンもNow Bar、GoogleもLive Updateという類似機能を搭載したのだ。まさに、Dynamic Islandは業界標準になろうとしている。




欠点を強みに変えたDynamic Island。“ワインボトルの窪み”に重なる成功例

Dynamic Islandが素晴らしいのは、欠点だと思われていた要素を強みに変えた点だ。このような成功例は非常に少ない。

成功例の1つが、ワインのガラス瓶だ。ワインのガラス瓶の底は、中心部が内側に大きく凹んでいる。この窪みは「piqûre(ピキュール)」と呼ばれるが、これは技術的な制限を逆手に取ったものだ。

フランス大使館によると、ガラス製のワインボトルは4世紀頃に生まれたが、当日の技術では底面を平らにすることが難しかった。ガラス瓶の製法は現在と同じだ。太い金属製のストローで息を吹き込んで作る。しかし、そのストローの跡が残ってしまうため、底が平らにならないほか、厚みが不均一となり強度も弱い。そこため、ストロー跡を利用して内側に凹ませることにした。こうすることで、底面を安定させ、強度も出したわけだ。

フランス大使館のXによると、ワインボトルの底にあるくぼみは、誕生した4世紀当時の技術的限界から生まれたものだという。画像●X

発端は技術的な限界によるものだが、それによって生まれた「ピキュール」は、ワインから出る沈殿物をためる場所となり、グラスに注ぐワインに沈殿物が混ざらないという実用性が生まれた。さらには、いつからか、この窪みが深いほど高級なワインということになっている。また、ソムリエはこのくぼみに指をかけてワインを注ぐ。その所作に高級感があり、ワインは特別な文化を生み出した。

くぼみは技術的限界なのだから、技術で解決をすると考えるのが普通だ。金型成形などの技術開発を目指すのもひとつの方向だろう。しかし、その課題を別の視点から解決すると独自性が生まれ、文化を醸成していくこともある。

iPhoneの進化は止まっていない。Liquid Glassも、スマホ各社が模倣するのは確実だ

「iPhoneの進化は止まっている」…とんでもない! iPhoneおよびAppleは、UI/UXの領域で新たな業界標準を生み出し続けている。今回のLiquid Glassにしても、各社は間違いなく模倣してくることだろう。マーケティング上の問題からLiquid Glass的なデザインをデフォルトにしなくても、スキンなどの形で提供することは確実だ。

少し遡っても、フラットデザイン、角丸アイコン(スクワークルアイコン)、表示フォントの質を高めることなどは、今やどのメーカーもやっている。それらを最初に始めたのはAppleだ。

Appleはいまだにイノベーションを起こし続け、各社のスマホに影響を与え続けている。スティーブ・ジョブズも、天国から親指を立てて「Good Job!」と微笑んでいるはずだ。




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著者プロフィール

牧野武文

牧野武文

フリーライター/ITジャーナリスト。ITビジネスやテクノロジーについて、消費者や生活者の視点からやさしく解説することに定評がある。IT関連書を中心に「玩具」「ゲーム」「文学」など、さまざまなジャンルの書籍を幅広く執筆。

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