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Apple Vision Proが描く“未来の教室”。大阪・関西万博「LIFE 2050 パビリオン」体験レポート

著者: 大谷和利

Apple Vision Proが描く“未来の教室”。大阪・関西万博「LIFE 2050 パビリオン」体験レポート

未来の暮らしは、どんな姿をしているのだろうか。

大阪・関西万博で8月26〜30日の5日間だけ多目的会場WASSEの中に設けられたIPA(独立行政法人情報処理推進機構)の「LIFE 2050 パビリオン」は、没入型のデジタル体験などを通じて、その一端を来場者に垣間見せた。特に、Apple Vision Pro(以下、AVP)を用いた高精細AR映像による仮想小学校の教室体験は、過疎地域の教育課題解決の1つの方向性を感じさせるものだった。

Apple Vision Proでなくては実現できなかった体験

「LIFE 2050 パビリオン」は、その名のとおり、「2050年の暮らしと学び」を通じて、未来の生活の姿をデジタルの力で描き出した、体験型のインスタレーションである。経済発展と社会的課題の解決を両立した新たな未来社会を意味する「Society 5.0」のリアルな姿を、五感で感じられる場を目指したものだ。

出展の狙いについて、IPAの齊藤 裕理事長は「将来のデジタル社会を具体的にイメージしていただきたい。特に子どもたちには、どこにいても多様な生活を楽しめる社会が来ることを実感してほしい」と語る。

会場となったWASSE内には未来の夏祭りをテーマにした屋台が並び、来場者はそれらを回って、時間や場所に縛られない新しい暮らしを思い描いてもらうという趣向だ。その中でも目玉といえるものが、AVPを装着して体験する「星の島小学校」だった。

「没入型技術によって、教育格差や教師不足といった課題の解決も可能になる。過疎地域でも複数の学校をデジタルでつなぎ、質の高い教育を受けられる未来を描いている」と齊藤氏は展望を語る。

その「星の島小学校」のAR体験を支えているのがAVPであり、齊藤氏は「実際にリアルな体験を提供するために解像度を含めた性能で選ぶと、Apple Vision Proのほかにない」と選択の理由を説明した。

大阪・関西万博のイメージキャラクターであるミャクミャクとポーズをとる齊藤 裕IPA理事長。背景に見えるものが、星の島小学校の学び舎をイメージした没入体験スペース。




半年かけて完成させた未来の小学校の授業の姿

IPAは、CEATEC 2024でも「LIFE 2050」をテーマに、AVPを使った未来の生活体験を出展したことがあったが、今回は、その続編的な位置づけとして未来の教育体験を取り上げた形だ。どちらのコンテンツも半年をかけて制作されており、AVPを使ったプロジェクトとして大規模な部類に属する。

架空の離島の小学校を舞台にした今回のコンテンツでは、担任と生徒が1人ずつしか居ないような僻地の学校でも、AVPのようなデバイスを利用することで、科目ごとの専門の教師や一緒に学んだり遊んだりできる友だちを呼び出して、教育の質を担保できる可能性を示すことが目的だ。

担任役には俳優の橋本愛さん、ダンスの先生としては「STREET WOMAN FIGHTER」といったさまざまなダンス大会への出場・優勝経験のあるダンサーのEeveeさんなどを起用。AVPを装着した来場者がその教室に入り込んで一緒に授業を体験するというスタイルで、イマーシブなインスタレーションが進行していく。

冒頭で、俳優の橋本愛さんが担任役として登場。
ダンスの先生役は、ダンサーのEeveeさんが務めた。
生徒が1人だけの教室に、一緒に学んだり遊んだりする友だちがやってきて来場者とともに踊り、教室の外へと誘う。

来場者は、こうした出来事をリアルな教室のセットの中でAVPをとおして主観的に体験していくが、セット内にはいくつかカメラが設置されており、終了後に渡されるQRコードにアクセスすると、その様子を動画で客観的に追体験することができる。

体験後にアクセスできる動画によって、仮想環境に入り込んだ自分の姿を見ることができる。その環境内では、教室の基本部分と筆者自身はリアルだが、1人だけ座っている生徒や机、椅子、Eevee先生、宙に舞っている習字の半紙は、すべて合成された3Dデータである。
来場者は、教室内を自由に動き回って、そこに置かれた水槽や地球儀、オルガンなどを観察することができる。それらのアイテムも教室内にあるリアルな物体だが、AVPをとおして見ることで、詳しい説明などが付加されて見える仕組みだ。
子どもたちに誘導されて教室の外に出ると波打ち際に担任の橋本先生が待っており、打ち上げ花火やロケットの発射、飛行するドローン(左端にその一部が見える)などを目の当たりにすることになる。そして、足を踏み出していくと、実際に水の冷たさを感じるのだが…。
出口でAVPを外して振り返ると、セットの中に実際に水が張ってあり、体験をよりリアルに感じられる大掛かりな仕掛けが施されていた。

「サイバー鬼退治」など、ほかにもさまざまな仕掛けが満載

このように、「星の島小学校」のAR体験は、色々な工夫によってリアリティが感じられるようになっており、5日間のみではもったいないと思える内容だった。

一方、来場者はAVPを操作することなく装着してセット内を歩くだけでよいが、まったくAVP経験のない人に対して準備や説明をされる係の方は、やはりそれなりに大変だったのではないかと思う。

特に体験前には、視力補正が必要な場合に、どのように対処するのかが気になったのだが、これには「VOY VRチューナブルレンズインサート」が利用されていた。このインサートは、レンズ上のスライダを動かすことにより、その場で補正値を変えられるというもので、近視用は0Dから-6Dまで、近視/遠視用レンズは+3Dから-3Dまで調整可能となっている。

実は、眼鏡を使用している筆者にとっても可変レンズアダプタの使用は初めてのことで、処方箋に基づく純正の補正レンズと比べて補正のレベルや歪みなどがないかが気になっていた。しかし、-6Dが0.01相当の視力補正に対応するので、プリズム補正などの特殊な補正が必要でない限り十分な機能を備えており、今回の体験では歪みなども感じられず、十分、実用レベルにあることがわかった。

幅広い視力補正に対応でき、十分な実用性を備えることがわかった「VOY VRチューナブルレンズインサート」。

「LIFE 2050 パビリオン」では、このほか、空飛ぶ宅配便(ドローン配送関連の展示)、星のかき氷(舌に対する電気刺激による味覚の再現)、サイバー鬼退治(スクリーンに現れる鬼に対してリアルなカラーボールを投げて命中させるゲーム)、つながる花火(人の動きや関わりあいによって彩りを変えるバーチャル花火)、へんしん模様(無地の衣装に模様を投影する簡易プロジェクションマッピング)の屋台があり、AVPのAR体験の待ち時間などに回遊して楽しめるようになっていた。

「空飛ぶ宅配便」は、VTOL(垂直離着陸)型ドローンを使ったドローン配送に関するIPAの取り組みを示す展示。IPAでは、ドローンやロボットの安全運行などのために、地球上の特定の空間領域(空・地上・地下・屋内・海など)を一意に識別する識別子である「空間ID」の利活用に向けた実証実験などを行っている。
簡易的なプロジェクションマッピングだが、インスタ映えする写真を撮ることができる「へんしん模様」。
プレーヤーが投げたカラーボールをリアルタイムで画像認識して、的である鬼との衝突判定を行う「サイバー鬼退治」。

齊藤理事長によれば、IPAは来年に大きな改革を計画しており、今まで以上に先進的な取り組みを行っていくとのことなので、APVを利用したインスタレーションの第3弾もあるかもしれない。個人的には、グラスタイプのARデバイスを応用する取り組みにも期待したいところだ。いずれにしても、今後のIPAの動きを注視していこうと思う。

著者プロフィール

大谷和利

大谷和利

1958年東京都生まれ。テクノロジーライター、私設アップル・エバンジェリスト、神保町AssistOn(www.assiston.co.jp)取締役。スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツへのインタビューを含むコンピュータ専門誌への執筆をはじめ、企業のデザイン部門の取材、製品企画のコンサルティングを行っている。

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