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コロナ禍で再脚光を浴びたスピーカ「HomePod」。実にAppleらしい誕生の理由づけ

著者: 大谷和利

コロナ禍で再脚光を浴びたスピーカ「HomePod」。実にAppleらしい誕生の理由づけ

「HomePodはホームミュージックを再発明する」

HomePodという製品名が初めて公にされたのは、2017年のWWDC(世界開発者会議)の席上だった。Appleは2006年にiPodドックを備えたオーディオスピーカのiPod Hi-Fiを発売したが、10年以上のブランクを経て、再び純正スピーカをラインアップに加えたのである。

WWDCでティム・クックに促されてプレゼンテーションを担当したのは、当時のワールドワイドマーケティング担当上級副社長で現在はAppleフェローのフィル・シラーだ。「iPodがポータブルオーディオを再発明したように、HomePodはホームミュージックを再発明する」という前口上に続いて、これがいかに過去にはなかったカテゴリの製品なのかの説明が行われたが、それは、まさに故スティーブ・ジョブズが好むロジックといえた。

いわく、世間にある既存の音の良いスピーカはスマートではない。一方で、スマートなスピーカは音が良くない。そこで、Appleは音が良くてスマートでもあるスピーカを作ったというわけだ。

また価格についても同様に、Wi-Fi対応で高音質のスピーカは300〜500ドルもするし、スマートスピーカも100〜200ドルはするので、音が良くてスマートなHomePodは、それらを足して400〜700ドルしても不思議ではないが、うれしいことに予定価格は349ドルだ…と告げてお得感をアピールした。

もちろん、両者を合体したようなスピーカならば共通する部分は省略してコストダウンできるわけで、単純な足し算をしているこの論法はおかしいことがわかる。シラーは、ジョブズから現実歪曲フィールドの作り方も学んだようだ。




HomePodの時を経ても色褪せない魅力

HomePodはその年の12月に発売予定だったが、実際にアメリカ(+イギリス、オーストラリア)で発売されたのは翌年2月のこと。日本では、さらに遅れて2019年の8月に3万2800円(税別)で販売開始となった。個人的には価格が高すぎるように感じ購入を躊躇していたのだが、実物に触れて音を聴いてみると、スマートスピーカとしての役割を担う当時のSiriの能力に不足があっても、十分、価格に見合う製品に感じられ、買うことにした。当初はApple Musicの再生中心に使っていたものの、Apple TVの音声出力に設定したことで用途が広がり、今も現役で活躍中である。

一方、筆者の家では以前からAmazon Echoで照明やテレビ、風呂の湯張りなどのスマートホーム的なシステムを構築済みだったので、HomePodのスマートスピーカとしての利用は、音声コマンドによるプレイリスト再生や音量調整が主体だ。それでも、冷蔵庫の中を確認しながら「メモ」アプリのショッピングリストに晩の献立の材料を追加するときなどに重宝しており、トータルな機能性で手放せない存在となっている。

2021年3月に販売終了となったフルサイズHomePodの復活は望めないように思えたが、コロナ禍で家で過ごす人が多くなりホームオーディオを見直す動きが出てきたためか、2023年2月には第2世代のフルサイズHomePodが発売開始。売れ行きも好調のようで、改めてHomePodのコンセプトが見直されていることはうれしい限りである。

※この記事は『Mac Fan』2023年4月号に掲載されたものです。

著者プロフィール

大谷和利

大谷和利

1958年東京都生まれ。テクノロジーライター、私設アップル・エバンジェリスト、神保町AssistOn(www.assiston.co.jp)取締役。スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツへのインタビューを含むコンピュータ専門誌への執筆をはじめ、企業のデザイン部門の取材、製品企画のコンサルティングを行っている。

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