目次
- 「米国向けのiPhoneは米国で生産されるべき」。トランプ大統領の発言により、Appleは大規模な投資を発表?
- 困難すぎる米国産iPhoneの実現。過去、Googleがモトローラを買収するも失敗
- 問題は人件費ではなく熟練工の不足。製造業が衰退した米国に今必要なのは“育成”
- 「Made in the USA」を謳ったトランプモバイルのスマホ。お手頃価格だが、本当に「米国製」…?
- 米国でのスマホ製造は“不可能”。トランプモバイルのキャッチコピーも変更へ
- トランプモバイル「T1」の製造元? ウィングテック社を取材するメディアも。しかし真相は不明なまま
- iPhoneの価格上昇はセールスに大きく響く。米国生産のスタートは、Appleの大きな危機?
Appleが、米国の製造業に4年間で6000億ドルの投資をする計画を公表した。Made in USAに向けた第一歩だが、iPhoneのすべてを米国製造するまでには長い道のりが必要だ。

一方、トランプ大統領が率いるトランプモバイルは「米国製(?)」のスマートフォンを9月に発売する。
「米国向けのiPhoneは米国で生産されるべき」。トランプ大統領の発言により、Appleは大規模な投資を発表?
Appleは、米国製造業への投資を4年間で6000億ドル(約88.4兆円)に増額し、45万人以上の雇用を生み出すと発表した。
トランプ米大統領は、以前から「米国で販売されるiPhoneは米国で生産されるべきだ。さもなければ、少なくとも25%の関税をかける」と公言していた。しかし、電子機器をすぐに米国内で製造することは現実的ではない。そこでAppleは、米国製造業に大規模な投資を発表したのだと見られている。
この中のある記述が、日本でも話題になっている。
「Appleは、テキサス州オースティンにある生産工場でサムスンと協力し、これまで世界のどこでも使用されたことのないチップを製造するための革新的な新技術を発表しています。この技術を最初に米国に持ち込むことで、この施設は、世界中に出荷されるiPhoneデバイスを含む、Apple製品のパワーとパフォーマンスを最適化するチップを提供します」
このチップが何かは言及されていないが、報道によると、三層スタック型イメージセンサで、iPhone 18への搭載を予定しているという。性能が向上するだけでなく、消費電力も抑えられる。
これにより、イメージセンサの供給元がソニーからサムスンに切り替わるのではないかという噂がたち、ソニーの業績に対する不安が高まっている。日本のソニーから輸入するのではなく、米国内のサムスンの工場で生産するのがポイントなようだ。
困難すぎる米国産iPhoneの実現。過去、Googleがモトローラを買収するも失敗
Appleは、着々と米国内での製造体制を強化し始めているが、最終的にすべてを米国製造にできるのだろうか。これは誰が考えても難しい。過去に米国産スマホに挑戦をした企業はあるが、いずれもうまく行っているとは言えないのだ。
2011年、Googleはモトローラの携帯電話事業モトローラモビリティを125億ドルで買収。スマートフォンMoto Xの米国製造に挑戦した。
モトローラモビリティは、2013年9月10日に自社ブログで高らかに宣言した。「従来の常識では不可能だと言われていました。…しかし、私たちはここ米国で主力製品をつくることを選びました。それは正しいことだからです。人々は私たちをクレイジーだと言いました」。
実際、クレイジーとしか言いようがない挑戦である。そうして、Moto Xの生産はテキサス州フォートワースに設立された工場でスタートした。
しかし、部品の多くは中国で生産されたものを輸入し、工場では組み立てを行うだけ。それでも熟練工が大量に不足し、ハンガリーやイスラエル、マレーシア、ブラジル、中国から熟練工を招聘することになった。生産は米国工場でも、部品や熟練工は海外から移してきたものだったのだ。
問題は人件費ではなく熟練工の不足。製造業が衰退した米国に今必要なのは“育成”
米国製造の難しさは「人件費が高い」ことだと考えている人は多い。しかし電子機器の場合、すでに自動化が進んでおり、大量の人員が必要なことはない。つまり、人件費の高さは最重要問題ではない。
一方、特にAppleなどは最先端の製造機器を特注し、これを使って製造を行っている。使いこなすには熟練工が必要であり、運用するには技術力のある機械エンジニアが必要だ。米国製造の問題は、製造業がすっかり衰退してしまったため、この熟練工と機械エンジニアが確保できないということにある。
2017年に雑誌「Fortune」が主催したフォーチュン・グローバル・フォーラムに出席したティム・クックCEOは、こう語っている。
「私たちが製造する製品には、本当に高度な製造装置が必要です。最先端の製造装置です。米国では、機械エンジニアのイベントを開いても、部屋がいっぱいになるかどうかはわかりません。中国では、複数のサッカースタジアムが必要になります」。
つまり、米国の製造業を復活させるには、育成が必要なのだ。そのため、当初は米国人でなく海外から熟練工と機械エンジニアを招聘し、長い時間をかけて米国人の従業員を育てなければならない。
「Made in the USA」を謳ったトランプモバイルのスマホ。お手頃価格だが、本当に「米国製」…?
結局、Googleはモトローラモビリティを2014年にレノボに売却することになる。失敗の最大の要因は、「Made in US」ということを大々的に宣伝したのに、米国消費者の多くは、どこで生産されたスマホかはあまり気にしていなかったことだ。素直に、安くて性能のいい製品を選ぶからだ。

ところが2025年6月、突如として米国産スマホを謳う企業が登場してきた。トランプモバイルという、米トランプ大統領が率いるトランプグループ傘下の企業だ。6月に予約販売が始まったとき、公式サイトには「Made in the USA T1 Phone」と記載されていた。

価格は449ドル(約6万6000円)と非常にお手頃。また、通話、メッセージ、データ通信が使い放題で月額47.45ドル(約7000円)の「47プラン」の加入特典がついている。これはトランプ大統領が第45代、第47代の米国大統領であることにちなんでいるようだ。
しかし、すぐに各方面から「米国製」というところに疑問が呈されることになった。
米国でのスマホ製造は“不可能”。トランプモバイルのキャッチコピーも変更へ
その中で説得力があったのは、米国で組み立てを行うスマホLiberty Phoneを発売するPurismのトッド・ウィーバーCEOの発言だった。ウィーバーCEOは、米国でスマホを製造するのは現状では不可能だと言うのだ。
Liberty Phoneも可能な限り米国製の部品を使うようにしているが、シャシーやモデムモジュール、WiFiモジュールなどは、中国やインドで生産されたものを使っている。

このウィーバー氏の発言が広がると、トランプモバイルの「Made in the USA」という表記はいつの間にか消え、「アメリカの誇り設計(American-Proud Design)」という言葉に置き換えられた。


それだけではない。米国や中国のネットワーカーたちは、このT1に注目し、中国の製造企業をほぼ突き止めた。その仕様などから、浙江省嘉興市を拠点とする「聞泰科技」(ウィングテック)ではないかと推定されている。
トランプモバイル「T1」の製造元? ウィングテック社を取材するメディアも。しかし真相は不明なまま
中国メディアの中には、ウィングテックに取材をするところも現れた。しかし、回答は「スマホ製造事業は売却したため、こちらでは詳しいことがわからない」というものだった。
確かにウィングテックのスマホ製造部門は、AirPodsなどの製造をしている中国深圳市の立訊精密工業(Luxshare)に売却されている。メディアは買収を仲介した企業やラックスシェアなどにも取材をしたが「顧客に関することは答えられない」という回答だった。
ウィングテックのようなEMS企業(受託製造企業)は、ただ言われたとおりに製造するだけでなく、自分たちで参照モデルを開発する。これを元に各メーカーに提示し、そのメーカーなりのカスタマイズをして製造する。
トランプモバイルのT1は、ウィングテックの参照モデルほとんどそのままではないかと見られている。なぜなら、米国通信キャリアT-Mobileが自社製スマホとして販売しているRevvl 7 Pro 5Gと仕様がそっくりであり、このモデルがウィングテック製だからだ。
このほか、トランプモバイルの製品写真は、設計図などから起こした3Dモデルをレンダリングした写真ではなく、iPhone 16 Pro Maxの製品写真を用いて、レンズの大きさなどを調整したものではないかとまで言われている。
iPhoneの価格上昇はセールスに大きく響く。米国生産のスタートは、Appleの大きな危機?
いろいろ雑なトランプモバイルだが、9月にどのような製品が出てくるのか、各方面から注目は集まっている。一方、Appleは大型の米国投資プロブラムをスタートさせ、米国製造にシフトせざるを得ない状況だ。
しかし、米国はもう長いこと自分たちでものづくりをしてこなかった国だ。
ユーザとしては、品質の低下と値上げが心配される。日本で販売されるiPhoneは、これまでどおり中国で製造される見込みで、フォクスコンではすでに人材を集め始め、テスト生産が動き始めているという。そのため、品質低下に対する懸念は心配する必要はないが、問題は価格だ。
米国で値上げをすることは必至であり、同時にグローバル価格の調整の恐れがある。そうなると、多くの人が「現行モデルをもう少し使おう」と考えるだろう。それは、2025年秋の発売が期待される新型iPhone以降のセールスに影響を与えるはずだ。
Appleは、iPhoneの販売を始めて以来の大きな危機に直面しているかもしれない。
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著者プロフィール
牧野武文
フリーライター/ITジャーナリスト。ITビジネスやテクノロジーについて、消費者や生活者の視点からやさしく解説することに定評がある。IT関連書を中心に「玩具」「ゲーム」「文学」など、さまざまなジャンルの書籍を幅広く執筆。







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