発想は良かったが…存在感が薄かった
2016年10月に発表されたMacBook Proは、iPhone 14 Proシリーズの「Dynamic Island」に匹敵する画期的なUI(ユーザインターフェイス)を備えていた…はずだった。
「Touch Bar」と名付けられたそれは、キーボードのファンクションキーのスペースに収められた細長いタッチディスプレイであり、物理的なキーボードのようにそのままファンクションキーを表示して使ってもよいし、使用中のアプリや状況に応じて最適と思える操作キーや文字の入力候補などを表示させることもできる。
実際にもTouch Barは、今のDynamic Islandと同様の期待感を持ってメディアに取り上げられた。かくいう僕も、かなりの思い入れとともに、新UI誕生の記事を書いた覚えがある。動的に機能が変化するファンクションキーに例えられるTouch Barは、確かに発想としては素晴らしかった。
しかし、実際に利用してみると、キーボード面の奥に位置するTouch Barは、意識して確認しないと見えにくいところがある。それは、正面に位置するメインスクリーンに集中していると、Touch Barの存在感が薄れてしまうことを意味していた。
状況に応じて、その場面に応じた最適な表示に変化してもそれに気づかず、結局のところ、Touch Barが提示する選択肢をタッチする代わりに、通常どおり、メインスクリーン内でマウスポインタによる操作を行ってしまうのだ。
意外と活用している人は多かった…? こだわりユーザの使いこなし
僕は、M1チップ搭載のMacを選ぶときにも、あえてTouch Bar付きの13インチMacBook Proにした。しかし、SafariでのWebブラウジング中に各ページのサムネイルが表示されたTouch Barにうっかり触れてしまい、急にページ内容が変わって戸惑うことがあった。
逆に便利なのは、Touch Bar上で指を滑らせるだけで、Safariのタブを連続的に切り替えることができるため、多くのWebページが開かれているときなどには、目的のページを探しやすくなることだ。
同様に、音楽のボリューム調整や再生位置の移動のような処理も、Touch Bar上のスライダを使って指で連続的に操作できるので、そういうアナログ的な操作を行うには、とても便利だ。
そのため、Touch Barにこだわって使いこなそうとするユーザも、中にはいるようである。たとえば「写真」アプリの明るさやカラーの調整、フィルタの選択、角度調整などをすべてTouch Barから行っていたり、サードパーティ製ユーティリティを使ってFinderのDockをTouch Barに表示したりと、活用例はたくさんある。
Appleは、現在(執筆当時)も13インチMacBook ProにのみTouch Barを残しており、製品紹介のWebページには「指先にあるショートカットや機能で、あらゆることが一段と速くなります」と書かれていたりする。しかし、次のフルモデルチェンジで消えゆく運命にあることは、ほぼ確実といえるだろう。
「弘法も筆の誤り」という諺のように、Appleもときにミスを犯すことがある。鳴り物入りで登場したが普及には至らなかったTouch Barも、そんな失敗の1つだったのだ。
※この記事は『Mac Fan』2023年2月号に掲載されたものです。
著者プロフィール
大谷和利
1958年東京都生まれ。テクノロジーライター、私設アップル・エバンジェリスト、神保町AssistOn(www.assiston.co.jp)取締役。スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツへのインタビューを含むコンピュータ専門誌への執筆をはじめ、企業のデザイン部門の取材、製品企画のコンサルティングを行っている。




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