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Macの黎明期を支えた高速パラレルバス規格「SCSI」  天国と地獄の両面を持つその特性とは?

著者: 大谷和利

Macの黎明期を支えた高速パラレルバス規格「SCSI」  天国と地獄の両面を持つその特性とは?

ハードディスク時代にマッチしたバス規格

初代Macintoshは、プリンタや通信用のモデムなどの周辺機器を外部接続するために比較的低速なシリアルポートを利用していた。シリアル接続タイプのハードディスクもあるにはあったが、スポーツカーで細い路地を走るようなもので実用的とは言い難かった。そこで、1986年にMacintosh Plusをデビューさせるにあたり、AppleはSCSI(スカジー)と呼ばれる高速パラレルバス規格を採用した。

Small Computer System Interfaceの略であるSCSIは、パーソナルコンピュータなどの小型計算機システム向けのインターフェイス規格であり、ハードディスクメーカーのシーゲイト・テクノロジー(当時はシュガート・テクノロジー)が開発したSASI (Shugart Associates System Interface)をベースに拡張したものだ。

SCSIでは、入出力の要求を行う機器を「イニシエータ」、その要求を受けて結果を返す機器を「ターゲット」と呼び、バス上に複数のイニシエータが存在していても構わない。つまり、コンピュータと周辺機器の間に主従関係を作らず、接続されたすべてのデバイスが対等に扱われることが特徴で、普通はコンピュータがイニシエータとなり、周辺機器はターゲットとして機能する。この点では、Macも例外ではなかった。

そして、SCSI−1の8ビット幅のバスは、最大8つの機器接続に対応できたが、Mac内のインターフェイスボードがその1つにあたるため、実際にサポートできる周辺機器は7台であった(参考までに、USBは1バスあたり127台接続可能である)。

IDとターミネータという名の曲者

Macintosh Plusを購入してフリーランスライターの仕事を始めた僕は、しばらくの間、SCSIに接続する機器がなく、その恩恵に与れなかった。しかし、データの保存にフロッピーディスクを使うことの限界を感じ、思い切って純正のハードディスクドライブを購入して、ようやくSCSIの素晴らしさを味わえるようになった。高速とはいえ、SCSIのデータ転送速度はわずか40Mbpsに過ぎない。それでも当時は、大容量(=数百KB〜)ファイルを瞬時に扱える、夢のような環境だったのである。

それ以来、僕はスキャナやCD-ROMドライブ、追加のハードディスクを買うにもSCSI対応の製品を選ぶようになり、自宅の周辺機器環境は充実していった。SCSI機器は、デイジーチェーン接続(数珠つなぎ)ができるためハブなどが要らずに便利だったが、ややこしかったのが機器IDとターミネータの存在だ。

前者は、接続した個々の機器に対してユーザが割り振る必要のある0〜6の番号のことで、新しくつないだハードディスクが正常に機能しないと思ったら、うっかりIDが重複していたこともあった。後者は、データ信号の反射を防ぐためにデイジーチェーンの最初と最後に装着するアダプタのようなものだが、取り付けても機器が認識されなかったり、機器をつなぐ順番を入れ替えてみたら動いたりと、予測不可能なことも多かった。

そんなわけで、不用意にいじると地獄を見るSCSIだが、快調に動いている限りは天国が味わえる規格として、’80年代後半〜’90年代のMacを支えたのである。

※この記事は『Mac Fan』2017年11月号に掲載されたものです。

著者プロフィール

大谷和利

大谷和利

1958年東京都生まれ。テクノロジーライター、私設アップル・エバンジェリスト、原宿AssistOn(www.assiston.co.jp)取締役。スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツへのインタビューを含むコンピュータ専門誌への執筆をはじめ、企業のデザイン部門の取材、製品企画のコンサルティングを行っている。

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