iPadを使えば、子どもたちの“見えない思考”が見えてくる——。そう語るのは、Apple Distinguished Schoolである近畿大学附属小学校で3年生を担任する塚本恵梨教諭だ。
ICTが日常にある教室で、児童一人ひとりの感情や思考に寄り添いながら、「自分の伝えたいことをどう表現するか」をともに探る塚本教諭の実践に迫る。
高学年につなぐ土台
奈良県奈良市の近畿大学附属小学校は、Apple Distinguished School(ADS)に2期連続で認定されるなど、ICT活用の先進校として知られている。児童に1人1台のiPadが配備され、教室では日々の授業や発表活動、探究的な学びの中で、その活用が当たり前になっている。
同校のICT活用を語るうえで欠かせないのが、「4年生から教科担任制に切り替わる」という教育体制である。現在3年生を担任する塚本恵梨教諭は、「3年生のうちにiPadやアプリなどツールの使い方の基礎を整えてあげたい」と語る。

塚本 恵梨
近畿大学附属小学校 教諭。Apple Distinguished Educator 2023。近畿大学附属小学校に新卒で着任し、教員歴12年目。心理学を学んだ経験を活かし、児童の思考や感情に寄り添ったICT活用を探究。現在は3年生担任。入試広報や表現活動、授業デザインの工夫を通じて、iPadを活用した創造的な実践を展開している。
学級担任制である1〜3年生の間に、iPadの基本操作や主要アプリの使い方を身につけておくことで、4年生以降は「教科の学び」にしっかりと時間を割くことができる。たとえば、「Keynote」によるスライド作成や「Pages」を使ったポスター制作などを授業の中で繰り返し扱いながら、「文房具のように使える」状態を目指している。
「4月から受け持っている子どもたちとは、最近までiPadの使い方を中心としたやりとりが続いていました。でも、ようやく変化が見えてきて、“伝えたいことを素敵に伝えたい”という意識が、子どもたちの中に芽生えてきたと感じています」
塚本教諭は、これまでに高学年の担任も経験している。そのときに感じたのは、ICTが“使いこなせる道具”になったときの学びの広がりである。
「授業をしていて特におもしろさを感じたのは、高学年を担当していたときです。6年生になると受験やクラス経営など大変な面もありますが、それ以上に授業でできることがぐんと広がります。iPadの活用経験が積み重なっている分、子どもたちの選択肢が広がり、課題に対するアプローチのバリエーションや学びの深まりも格段に違います。実際、子どもたちがいきいきと楽しそうに取り組む姿を多く見られました」
だからこそ今、3年生の担任としての役割を「高学年の豊かな学びにつながる“地ならし”」だと語る塚本教諭。ツールの扱いを教え込むのではなく、子どもたち自身が自然と「表現する手段」として使いこなせるようになる素地をつくることが、ICT実践の基盤となっている。
子どもの表現をひらく
塚本教諭は、iPadを「表現の道具」として自然に活用できるよう、授業設計にさまざまな工夫を取り入れている。たとえば、1年生の生活科では「学校の好きな場所を撮ってこよう」という課題を実施。子どもたちのこだわりが詰まった1枚を通じて、「言葉ではうまく伝えられない思いや視点」が共有され、子どもたちの感性に触れる豊かな時間となった。

同じテーマを4年生の道徳で行った際には、撮った写真をオンライン掲示板アプリ「Padlet」にアップロードし、校内に掲示したQRコードから保護者や来校者に共有するかたちに発展。SNS的な要素を取り入れつつ、誰かの作品に「いいね」やコメントを送り合う仕掛けが、子どもたちの創作意欲や他者へのリスペクトを自然と育んだ。

「授業では、ロイロノートやNumbersで共有するスタイルが多いのですが、作品として特別に扱いたいときもあります。そうしたときに、たとえば「いいね」がつけられるSNS的な機能があると魅力的ですよね。でも小学生にはまだ本物のSNSを使わせることはできません。
その点、Padletは個人のアカウントを持たなくても利用できて、誰でも見ることができる。さらに、保護者や外部の方にも広く見てもらえるという利便性があります。そうした部分が、とても使いやすいと感じています。
普段あまり自分の意見を口に出せないような子が、すごくこだわって写真を撮っていたりして。それを見た他の子が“めっちゃすごいやん”って素直に言葉をかける。そういう場面にたくさん出会えました」
さらに塚本教諭は、教科担任として4年生以上の社会科「防災」の学習で、成果発表の方法を自由に選択してもらう実践も行っている。Keynoteのライブビデオでプレゼンを録画する子、iMovieでナレーション付きの動画を編集する子、ポスターにまとめる子など、選択肢を持たせることで、それぞれの表現力や学びの深まりが生まれた。
「伝えたいことをどうすればより素敵に届けられるか」という表現力の育成につなげている点が、塚本教諭の実践の魅力である。

“見えない頭の中”を可視化
塚本教諭はiPadを「子どもの“見えない頭の中”を可視化できるツール」だと語る。
「だからこそ、「自分の伝えたいことをどう表現するか」を大切にしたいと考えています。たとえば、文字を書くのが得意な子は文章で、レイアウトやデザインが得意な子はポスターで表現すればよいし、インパクトを残したい場面では動画やスライドを使って、実際に話すほうが効果的なこともあります。
重要なのは、『誰に向けて、何をどう伝えるか』という相手の立場に立つ意識です。小学生だからこそ、ただ一方的に発信するのではなく、『この子に伝えたい』とか『今日は教室の前で発表するんだ』というような、相手を意識したやりとりの経験も大事にしたいと思っています」
テクノロジーに振り回されるのではなく、子どもに必要な視点を真ん中に据えて道具を選び、活用する。塚本教諭の実践からは、ICT教育の本質が浮かび上がってくる。

※この記事は『Mac Fan』2025年9月号に掲載されたものです。
著者プロフィール
三原菜央
1984年岐阜県出身。 大学卒業後、8年間専門学校・大学の教員をしながら学校広報に携わる。 その後ベンチャー企業を経て、株式会社リクルートライフスタイルにて広報PRや企画職に従事。 「先生と子ども、両者の人生を豊かにする」ことをミッションに掲げる『先生の学校』を、2016年9月に立ち上げた。



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