上質なホテルやレストランの予約サービス「一休.com」では、MacBookなどのデジタルデバイス管理をクラウド化。
その結果、情シスエンジニアが従業員ファーストの職場環境の改善に時間を割けるようになった。その影響は、情シスエンジニアの働き方だけでなく、キャリアデザイン、組織のあり方にまで好ましい影響をもたらし始めている。
作業負担が軽減!業務改善へ
株式会社一休は、厳選されたホテル・旅館などの宿泊予約サイト「一休.com」、厳選されたレストランの予約サイト「一休.comレストラン」など、“潤い”を感じられるサービスを提供している。

業務端末はWindowsPCがメインで、一部にMacを導入。デバイス管理は「Microsoft Intune」と「Jamf Pro」を使い分けている。それにより作業負担が軽減され、「従業員ファースト」の考え方のもと、社内全体の業務環境の整備にリソースが振り向けられるようになった。


同社のコーポレート本部 社内情報システム部 兼 CISO室 コーポレートエンジニアの大多和亮氏によると、働き方やキャリアまで大きく変える原動力になる可能性を感じているという。
デバイス管理の進化が、情報システムの業務だけでなく働き方を大きく変え、さらにはエンジニアのキャリアデザインまでも変えようとしているのだ。

一休の従業員数は約300名(デバイス配付対象者)で、業務端末はWindowsPCが基本だ。それに加えて70台ほどのMacも支給しており、その対象はほとんどエンジニアかデザイナー。開発業務での必要から、WindowsPCとMacの2台使いをするケースが多い。さらに、営業職を中心にiPhone、iPadも支給している。


一休の営業職は外出が多く、中には出勤日の半分を出張している従業員もいるという。そのため、どこにいても社内にいるのと同じように業務が進められる環境を用意し、業務端末の持ち運びによる紛失と盗難のリスクに対応するため、当初はMac、Windowsの両方を管理できるMDM(Mobile Device Management)を利用していた。
ところが、そのMDMツールはMacとWindowsでできることに違いがあり、管理の難しさを生んだ。さらに、当時は社内にサーバがあったためオンプレミス型のMDMを使っており、これも管理の手間を増やしていたという。
Jamf Proの導入により管理体制を刷新。大幅な負担軽減へ?
2020年夏、Windowsに関してはIntune、Macに関してはJamf Proを導入して管理体制を刷新した。これにより「Windowsで設定できる管理項目がMacでは管理できない」という課題はほぼ解消されたという。
こうして情シスの作業負担は激減した。特に負担が大きかったのがキッティング作業だ。以前は、デバイスが到着したら開封して設定を行い、業務ツールのインストールなどを手作業で行う必要があった。
一休では、原則4年でデバイスを更新する。また、エンジニアは2年で更新するケースもあるそうだ。デバイス総計は約500台あるため、単純計算で毎年100台以上のキッティング作業が発生することになる。
以前の管理体制でのキッティングでは、会議室などを占有し、そこにデバイスを並べ、そのためだけにアルバイトや派遣社員を雇用していたほどだ。大多和氏の感覚では、準備作業などを含めて月に数十時間かかっていたという。しかし、IntuneでもJamf Proでもゼロタッチデプロイが実現したことで、作業時間は大幅に削減された。
また、Jamf Proによってもうひとつの課題も解決されている。以前使用していたMDMでは、macOSのアップデートがあってもすぐにアップデートすることができず、MDM側の対応を待たなければならなかった。これに数カ月かかることもあり、エンジニアからは最新のmacOSが使えないという不満があがっていた。この遅れにより、開発やデザインの業務に支障が出ることもある。しかし、Jamf ProはmacOSがアップデートされた当日に対応するゼロデイサポートを実現している。
リソースの適切な再分配
情シスに生まれた余裕をどこに振り向けるかで、その企業のデジタル力が決まっていく。一休では「従業員ファースト」の考え方の元、快適な業務環境の構築に振り向けた。
「Zoomなどのビデオ会議が急増したため、まずはネットワーク回線の速度向上を行いました」
また、出退勤管理もアプリでの手動打刻から、カードタッチ方式に変えた。オフィスの入り口にカードリーダがあり、出勤時と退勤時に社員証をタッチするだけで、出退勤管理が記録される。
「在宅勤務時には、『Slack』で特定のコマンドを入力するだけで出退勤管理ができるようにしました」
業務ツールには「Google Workspace」を導入しており、生成AI「Gemini」もすべての従業員が利用できる。すでに、AIに社内ナレッジを学習させる取り組みが動き始めているそうだ。
「社内にはさまざまなナレッジがありますが、現在はまだ、各従業員の頭の中にある状態です。そのため、わからないことがあると、詳しい人に尋ねるということをしていました。問題は、その問い合わせが特定の人に集中してしまうことです。そこで、このナレッジをAIに学習させて、いつでもチャットで問い合わせができる環境を構築しようと考えています」
一休の特徴は、兼任が多く、1人の従業員が多様なスキルを身につける機会が与えられていることだ。
「私はコーポレート業務に関心があるので、人事や経理、労務などと兼任できないかと考えています」
バックオフィス業務は専門性が高いため、経理であれば経理知識は豊富に持っているが、ITリテラシーはさほど高くないという人で構成されることもある。そこにIT知識の高い大多和氏のような人材が加わることで、「ITに強い経理」が実現できるのでは、という。
大多和氏は、「今後、情報システム部という器はなくなってしまうのかもしれませんね」と話す。
部署という器は溶けていき、チームに多様なスキルを持った人材が参加し、人は自由に行き来する。情シスの過大な負担を解消する改革が、会社全体をしなやかな組織に変えていくきっかけになろうとしている。
※この記事は『Mac Fan』2025年9月号に掲載されたものです。
著者プロフィール
牧野武文
フリーライター/ITジャーナリスト。ITビジネスやテクノロジーについて、消費者や生活者の視点からやさしく解説することに定評がある。IT関連書を中心に「玩具」「ゲーム」「文学」など、さまざまなジャンルの書籍を幅広く執筆。



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