※一部画像に関しては、特別な許可を得てiOS 26デベロッパーベータ版を試用して撮影しています
WWDC25で、Appleは、iPhone、Mac、iPad、Apple Watch、Apple TVの各OSを「Liquid Glass」というデザイン言語で統一することを発表した。

ディスプレイ上で多くの情報をわかりやすく表現しようとすると、“透明”表現に至るのは必然で、過去にも「Mac OS X」のAquaインターフェイスや、Windows Vistaなども透明なウインドウをモチーフとして使ってきた。
しかし、Liquid Glassは過去の“透明”表現を使ったインターフェイスとはまた違った表現である。Appleが今「Liquid Glass」を使う必然と、その効果についてご説明しよう。
Liquid Glassが必要とされる意味
今、AppleのOSは大きな岐路に立っている。
Mac Fan Portalの読者の方ならご存じかと思うが、もともとこれらすべてのAppleのOSの土台になっているのは、UNIXベースで開発され、2001年に公開された「Mac OS X」である。
その「Mac OS X」のコア部分である「Darwin」を使って、iOS、iPadOS、watchOS、tvOS、visionOSは開発されているため、ある意味根幹の部分は共通だといえる。
また、2019年には「Catalyst」という仕組みによって、iPadアプリをMac用としてビルドできるようになった。翌年にAppleシリコンが発表され、ハードウェア的にも近似の存在となり、基幹部分が共通化されているのはさらに大きなメリットとなった。
しかし、それと同時に、スマホ、パソコン、タブレット、スマートウォッチ、セットトップボックス、ARデバイスと、インターフェイスは個別に進化してきた。
それを、デザイン言語において統一しようというのが「Liquid Glass」である。
スキューモフィズムからフラットデザインへ
初代iPhoneからiOS 6までは、「スキューモフィズム」という、メモなら本物のメモ、カメラなら本物のカメラのディテールを再現する手法が取られた。

これは、実際に日常的に使う道具のメタファーを持たせることで、そのとき初めてスマホを手にした人に、何ができるアプリなのかわかりやすく伝える役割を果たした。
スマホがひとしきり普及したところで、現実の道具に伝える必要がなくなり、iOS 7からは極力シンプルなデザインで伝える「フラットデザイン」が採用された。

たとえば、初代の「Instagram」のアイコンが、ポラロイドカメラを模していたことが象徴的だろう。もはや、ポラロイドカメラを使って写真を撮る人より、「Instagram」で写真をやりとりする人のほうが多いのだから、そんなメタファーで表現する必要はない。
visionOSの表現がLiquid Glassのヒントになった
Apple Intelligenceも含めた生成AIの登場で、これからデバイスの活用方法も大きく変わっていくはずだ。もしかしたら、音声でのやりとりも増すかもしれないし、個々のデバイスの特徴が薄れていって、“自分用のApple Intelligence”とやりとりするような状況になっていくかもしれない。
今回、visionOSの開発担当者にインタビューする機会があったのだが、彼は「visionOSの表現がLiquid Glassのヒントになった」と言っていた。
透明性があり、奥行きがある空間コンピューティング的なものが今後のスタンダードになっていくのかもしれない。
それらいろいろなことを踏まえて、現時点で、iOS、macOS、iPadOS、watchOS、tvOSの共通したデザイン言語として提示されたのが「Liquid Glass」である。
それは、Apple Intelligenceを支えるOS群として存在感を薄れさせていく(透明になる)のかもしれないし、空間コンピューティングが一般化するための橋渡しなのかもしれない。
そんな、大きな節目としてのLiquid Glassの採用であり、OSのバージョン番号の統一なのだと思う。
ちなみに、前出のvisionOSの開発者によると、visionOSはLiquid Glassのヒントにはなったが、現状ではLiquid Glassを採用しているわけではないという。

ただ透明なだけでなく、“液体(Liquid)”のような反応をすることが重要
Liquid Glassについては、静止画ではなく、ぜひAppleが公開している動画を見てほしい。単なる“Glass”ではなく、「Liquid Glass」であることに意味があるのだ。
たとえば、「写真」アプリ。表示された写真の上に、操作系のボタンは透明で丸みのあるガラスのような表現で描画される。
下の写真をスクロールさせると、透明なガラスのようなボタンは、下の写真が写り込み屈折して見えるように表現される。写真をスライドさせると、その色や光が減衰し、屈折し、反射して表現される。


バーの一部をタップすると、タップした瞬間に“ぷるん”と震えて動作する。ボタンから広がるコンテキストメニューがあるときも、そのボタンがまるで水滴を指で押しつぶしたときのように“ぷよん”と広がってメニューになる。トランジションがアニメーションで表示されるから、どのボタンが広がったのかわかりやすい。
スライドバーの上の透明なボタンを動かすと、そのボタンの下のバーの写り込み方が刻一刻と変わっていく。その光の造形を見ているのが楽しくて、つい操作してしまう。
iPhoneを傾けると、ジャイロで検出された動きに従ってアイコンのハイライト部分が動くという芸の細かさだ。

アプリアイコンも複数のレイヤーを利用してデザインされている
アプリアイコンも透明なガラスの効果を活用したものになっており、複数のレイヤーを利用してデザインされている。角Rはより大きくなり、ハードウェアのボディのRと同心円状になるように配置される。
アイコンデザインはグラフィックが若干小さくなり、地の部分が増えている。これは地の部分が透明性を持ったときに、壁紙の色合いを透過する余地を持たせるためだと思われる。


計算力に余裕があるからこそ実現できた表現
Appleのインターフェイスガイドラインでは、操作したときにしかるべき反応があることが重要とされている。それがさらに推し進められて、操作した反応が楽しいから、つい触ってしまうようなインターフェイスへと進化しているのだ。


「透明だと、背景色によっては読みにくいのでは?」と心配する人もいるが、背景が屈折して見えることで、常にボタン上に描かれたグラフィックは浮き上がって見えるので、その心配はなさそうだ。
また、背景色によっては動的かつスムースに、ライトモードからダークモードに切り替わることによって、自然な読みやすさを維持している。また、ボタンが透明で邪魔になりにくいので、ボタンやグラフィック自体のサイズも大きくなっている場合が多いので、むしろ見やすさは増している。
もちろん、実際に使っていく中で見にくさを感じるポイントもあるかもしれないが、そのあたりは時間を追って修正されるだろう。アクセシビリティには、透明度を減らし背景との境界をはっきりとささせる「透明度を減らす」というオプションも用意される。
屈折や、反射の表現に若干マシンパワーを使うので、計算力に余裕がある今だから実現できた表現だともいえる。もちろん、現在のAシリーズチップや、Mシリーズチップにとっては物の数ではない。
刻一刻と変わる“写り込み”が美しい
複数のレイヤーを持つことで、たとえば下にどんな図柄があるかということも伝え続けられるし、さまざまな光の写り込みや、なめらかな動きを使うことで、我々ユーザが受け取る情報量は増している。

また、透過、屈折、反射などの光の美しさは魅力的で、“使う楽しさ”も提供してくれる。
iPhone、Mac、iPad、Apple Watch、Apple TVのインターフェイスはより統合されつつ、それぞれの利便性は十分に確保されている。
秋に実際に公開されるまでに細部がさらに調整されるかもしれないが、現時点でも触ってみると非常に使いやすくて、使う楽しさを感じるインターフェイスだ。正式版のローンチを楽しみにお待ちいただきたい。
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著者プロフィール

村上タクタ
Webメディア編集長兼フリーライター。出版社に30年以上勤め、バイク、ラジコン飛行機、海水魚とサンゴ飼育…と、600冊以上の本を編集。2010年にテック系メディア「ThunderVolt」を創刊。