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Appleは大変革をどう乗り切るのか? 用意周到なプロセッサ転換戦略/今井隆の「AppleシリコンでMacはどう変わるのか?

著者: 今井隆

Appleは大変革をどう乗り切るのか? 用意周到なプロセッサ転換戦略/今井隆の「AppleシリコンでMacはどう変わるのか?

画像:Apple

※この記事は『Mac Fan 2020年9月号』に掲載されたものです。

プロセッサ転換で、ユーザはスムースに移行できるのか?

Appleはおそらく、今回のプロセッサ転換への準備を数年前から計画していたに違いない。スティーブ・ジョブスはPowerPCからIntelプロセッサへの切り替えを発表した2005年のWWDCで、Mac OS Xの開発当初からInel版も開発されていたことを明らかにし、「Designs must be processor independent」(その設計はプロセッサに依存してはならない)と明言していた。

おそらくApple Aプロセッサ上で動くmacOSはかなり早い段階から存在していて、Appleはその機が熟すのを待っていたに違いない。

Appleは今後数年をかけてAppleシリコンへの移行を進めるとしており、これは前回のIntelプロセッサへの移行期間とほぼ同じだ。ユーザがスムースにAppleシリコンへ移行できるよう、Appleは2020年秋にリリース予定のmacOS Big Surに、両プラットフォームで動作するアプリを開発する「Universal 2」、従来のIntelネイティブアプリを動作させる「Rosetta 2」などを用意した。

中でも従来のMacユーザにとって重要なのは、手持ちのアプリ資産を活かすRosetta 2だろう。

Rosetta 2はIntelコードで書かれたアプリケーションやフレームワークを高速にトランスコードすることで、アーキティクチャの異なるAppleシリコン上での動作を実現する。
画像:Apple

Rosetta 2はアプリのインストール時にコード変換を行う「Translates at install time」や実行中のコードをリアルタイムに変換する「Dynamic translation for JITs」などにより、ユーザはまったく意識することなく従来アプリを動作させることができるとしている。

macOS Big Surには両プラットフォームで動くアプリを作成できる「Universal 2」、Intelアプリを動作させる「Rosetta 2」、仮想マシン環境「Virtualization」、iPhoneやiPadのアプリの実行環境が用意される。
画像:Apple




ハードウェアの制約とその解決手段

とはいえ、Appleシリコンへの移行は大規模な転換であり、すべてに互換性が約束されるわけではない。たとえば、Intelプロセッサの拡張命令である「Intel AVX」シリーズはサポートされず、これらの拡張命令を利用するアプリは動かない。

またハードウェアの違いから、Windowsを動作させるためのBootCampやサードパーティの仮想マシン(VMwareなど)は動作しない。このことはMac上でWindows環境を使ってきたユーザには厳しい状況だ。

しかしこれはあくまで現時点の話であり、将来的には解決される可能性がある。理想的な解決方法は、MicrosoftがAppleシリコンネイティブのWindows 10をリリースすることだ。

実際にSurface Pro XではARMネイティブのWindows 10が動いていることから、あとはAppleの協力が得られるかが鍵になる。すでに「Microsoft Office」アプリのAppleシリコン対応が実現していることから、今後の進展に期待したい。

また、Intel製コントローラに依存するThudenrboltへの今後の対応も気になるところだが、Appleは「The Verge」など複数メディアに対して「Appleシリコン搭載MacでThunderboltをサポートしていく」とコメントしている。

MicrosoftのSurface Pro Xには、MicrosoftとQualcommが共同開発したARMプロセッサ「SQ1」が搭載され、そのうえでフルバージョンのWindows 10が動作する。
画像:Microsoft

※こちらの連載は、毎週土曜日18時に公開する、計7回の連載です。

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著者プロフィール

今井隆

今井隆

IT機器の設計歴30年を越えるハードウェアエンジニア。1983年にリリースされたLisaの虜になり、ハードウェア解析にのめり込む。

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