なぜ私たちはMacに惹かれるのか──。
それはAppleが単なる「商品」ではなく、常に「最高の製品」を目指し、Macを開発しているからにほかならならない。
プロダクトデザイン、パフォーマンス、UI/UX、サウンド、パッケージ…。ときに異常と言えるほどディテールにこだわり、Macを世に送り出している。
1984年以降愛され続けてきた革新的なパーソナルコンピュータのすごさを、プロフェッショナルや専門家への取材をもとに、改めて掘り下げてみよう。
※この記事は『Mac Fan 2024年7月号』に掲載されたものです。
現在のMacは期待に応えてくれる存在なのか?
企業のコマーシャル映像制作をはじめ、幅広い分野で活躍する映像作家の鈴木佑介氏。
撮影から編集までワンストップで行っているという鈴木氏だが、制作環境にMacを選ぶ理由はどこにあるのだろうか?
映像編集の分野では、コンピュータに高いパフォーマンスが求められる。
特に4Kや8Kといった大きな映像素材を扱うプロにとって、現在のMacは期待に応えてくれる存在なのだろうか。

鈴木佑介さん
1979年神奈川県逗子市生まれ。TV-CF制作の撮影スタジオ勤務、ロケーションコーディネートを経て独立、現在フリーランス20年目の映像作家/DP/フォトグラファー。「人を描く」ことを専門にWeb広告・プロモーション映像などをワンストップで手がける。執筆業のほか、講師、映像コンサルタントとしても活動。近年ではスタジオポートレートを中心にスチル撮影業も始める。Blackmagic Design認定DaVinci Resolve 18トレーナー。ROD Eアンバサダー。2022年よりNANLITE日本公式アンバサダー就任。
【URL】https://www.yusuke-suzuki.jp
憧れの映画監督の仕事風景に触発された
──鈴木さんは、企業のコマーシャル映像の制作のほか、セミナー講師や記事の執筆など、幅広く活躍されています。多彩な活動を行うようになったきっかけは何だったのでしょうか?
手を広げようとしていたわけではないんです。ずっと映像制作を続けてきて、あるとき写真・映像関連の展示イベントでステージに登壇しました。そのときに人前で話すのが得意だと思われたようで、セミナーや執筆の仕事が増えていきました。ただ、少し前まではビデオグラファーブームのようなものがありましたが、最近はそれも落ち着いてきましたね。講演の機会は減って、本来の映像制作の仕事の比率が上がってきました。
──Macはいつ頃から使っているのですか?
大学生のときに、叔父からお下がりのPerformaを譲ってもらったのが最初です。叔父はクラムシェル型のiBook G3を買ったので、古いのをくれたんです。ただ、その頃のMacは、何かやろうとするとすぐフリーズしていましたね。
──その頃から映像制作に使っていたのですか?
大学の映画学科に在籍していて、自主映画の制作に関わっていました。当時は友人の家のWindows PCで編集をしていたのですが、自宅でも作業したくなって、同じようにWindows PCを買いました。
──一度Windowsに乗り換えたのですね。
そうなんですよ(笑)。でも、CM専門の撮影スタジオに勤めていたある日、映画監督の岩井俊二さんがいらっしゃって、PowerBook G4とFinal Cut Proを使って編集しているのを見たんです。それがとてもカッコよくて、最初のボーナスでPowerBook G4を買いました。それから今日まで、23年間ずっとMacを使っています。
──映像編集ソフトは、やはりFinal Cut Proですか?
ずっとFinal Cut Proを使ってきましたが、最近はDaVinci Resolveが気に入って乗り換えました。


──現在のハードウェア環境も教えていただけますか?
デスクトップ型マシンは、Intel製チップを搭載したMac Pro(2019)で、Apple純正の32インチディスプレイ(Pro Display XDR)と27インチの5Kディスプレイ(Studio Display)をつないで使っています。
──ディスプレイはどちらもApple純正なのですね。
サードパーティ製ディスプレイにはキャリブレーション機能が充実している製品もありますね。でも、最近の映像コンテンツは、テレビよりもスマートフォンで見る機会が多いと思います。iPhoneで見る人も多いだろうと考えると、Apple純正のディスプレイにしようという結論に至りました。デザインも含めて、僕は純正のほうが愛着が持てますから。
Appleシリコンなら映像編集もストレスなし
──ラップトップ型マシンも使っていらっしゃいますか?
ラップトップは、M1 Maxを搭載した14インチMacBook Proを使っています。
──MacBook Proでも映像編集を行っているのですか?
はい、大きな画面で見たいときはデスクトップ、外出時はラップトップを使っています。MacBook Proの内蔵ストレージを8TBにしたので、基本的には外付けストレージも持ち歩きません。プロジェクトデータ自体は軽いのでクラウドサービスに保存しておき、Mac Proで編集したいときは素材をSSDに入れて作業します。

──8K映像など重いデータを扱うこともあると思いますが、パフォーマンス面で不満を感じることはありませんか?
同じ8Kでもコーデックによってマシン負荷が違いますが、プロレズ(Apple ProRes)の場合はMacBook Proでもストレスなく編集できます。AppleシリコンはCPUとGPUのバランスがよく、非常にサクサク動いてくれますね。4KでYouTube用コンテンツにテロップを入れるような編集なら、MacBook Airでも難なくできると思います。それに、驚くほど発熱が少ない。昔のApple製のノートブックは膝に置いたら火傷するくらい熱くなる製品もありましたが、現在のMacBook Proは負荷の高い作業をしてもそれほど熱くなりません。
──プロレベルの映像編集でも、MacBook Proがストレスなく活躍しているのですね。
そうですね。でも、不満が少なくなったことで、新製品が出ても買い替えたい欲求が湧きにくくなったのが複雑なところです(笑)。以前までは新製品が出るたびに欲しくなっていましたが、最近はそこまでではなくなりました。
──搭載ポートなどの拡張性に関しても不満はありませんか?
昔は、Macは拡張性が低いと一部で指摘されていましたが、今はその問題を感じていません。たいていの場合はUSB-CやThunderboltといったインターフェイスがあれば十分です。個人的には、SDカードスロットもなくていいくらい。
──撮影データをMacに読み込ませるときはどうするのでしょうか?
最近は、シネマ用カメラや一眼レフカメラなど、多くの映像機器がCFexpressカードという記録メディアを採用していますが、これもUSB-C接続のカードリーダがあります。ですので、データの読み込みで困ることはほとんどありません。ただし、いろいろな機器をつなげようとすると、USB-Cポートはやはり4つ欲しくなりますね。

デザインの美しさが仕事意欲につながる
──映像制作に携わる人は、Windows PCを選ぶことも多いのではないでしょうか?
自分の周りでは、特に3DCGを扱う人でWindowsを選ぶことが多い印象です。マシン構成を柔軟にカスタマイズできて、コストも抑えられますから。
──それでも鈴木さんがMacを使い続ける理由は何でしょうか?
やはり使いやすさですね。Macのユーザインターフェイス(UI)は直感的だし、フォントも美しい。あと、全体的な色使いも統一感があって落ち着いていますね。Windowsはデスクトップが散らかっていると本当に雑然として見えますけど、Macだと意外とすっきりとして見えます。
──たしかに、OSの見た目は大切な要素ですよね。
ハードウェアとしてのデザインもシンプルで良いですよね。たとえば、WindowsのノートPCは側面にいろいろなポートが並んでいますが、MacBookシリーズはUSB-C以外のポートをほとんどなくしたことで非常にスッキリしています。Appleが既存のものを大胆に廃止するやり方は、どこか映像制作と似ていると感じます。映像制作は「捨てること」の連続ですから。何かを失くすと、必ず批判する人が出てきますが、個人的にはAppleの大胆な姿勢には好感が持てます。
──シンプルなハードウェアのデザインも気に入ってるポイントだと。
美しいデザインは仕事のモチベーションにつながります。個人的には、気持ちの良い環境で仕事をすることで、より良い成果が期待できるのではないかと思っています。

著者プロフィール

小平淳一
Apple製品を愛するフリーランスの編集者&ジャーナリスト。主な仕事に「Mac Fan」「Web Desinging」「集英社オンライン」「PC Watch」の執筆と編集、企業販促物のコピーライティングなど。ときどき絵描きも。Webの制作・運用も担う。