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“ある動画”がAppleのGoogleに対する批判的メッセージだと話題に。Cookieを巡るChromeの“行動追跡”問題とは?

著者: 山下洋一

“ある動画”がAppleのGoogleに対する批判的メッセージだと話題に。Cookieを巡るChromeの“行動追跡”問題とは?

Appleが動画「Flock」で描いた悪夢は、もはや単なるフィクションではない。GoogleがサードパーティCookie廃止を覆した今、iPhoneであなたが無意識に開くブラウザが、プライバシーを丸裸にする扉と化すかもしれない。

物議を醸した“ある動画”

米Appleが昨年夏に公開した動画「Flock」が、ここにきて論争を呼んでいる。スマートフォンでブラウザを開くと、羽を生やした監視カメラが空から飛来し、ユーザを執拗に追い回す演出だ。動画の終盤、iPhoneユーザが「Safari」を起動すると、街中を飛び交っていた監視カメラが一斉に爆発して消滅する。

この動画は、オンライン上の行動追跡がもたらす危険性への自覚を促すものだが、タイトル「Flock(群れ)」は、Googleが提案した「フロック(FLoC)」を想起させる。「フロック」とは、サードパーティCookieに代わる新しい広告ターゲティング技術だ。動画内で「Chrome」への言及こそないものの、その内容と背景から、Chromeに対するAppleの批判的メッセージだと広く受け止められた。

動画は、Safariを“真のプライベート・ブラウザ”として訴求する構成だ。




物議を醸した大きな2つの理由

この動画が今になって物議を醸している背景には、大きく二つの理由が存在する。

一つは、GoogleがサードパーティCookie廃止を正式に撤回したことだ。同社は数年前、ユーザのプライバシー保護を掲げ、Chrome上でサードパーティCookieを段階的に廃止すると宣言。しかし、フロックのような代替技術の開発は難航し、その結果、ついに計画自体が頓挫した。

フロックは、個人を特定するデータを用いず、類似した閲覧習慣を持つユーザーをグループ化。そのグループIDを広告主に提供するという仕組みであった。だがAppleは、フロックであっても高度な機械学習やAIによって個人が特定されうるリスクを指摘していた。結局、Googleはフロックからも撤退。サードパーティCookieを存続させたのだ。

Googleは4月22日、プライバシーサンドボックスのプロジェクトにおいて、サードパーティCookieの選択をユーザに委ね、セキュリティ保護の強化で信頼性を高める方針を固めた。

AppleはSafariで、早くからサードパーティCookieをデフォルトでブロックするなど、プライバシー保護で業界をリードしてきた。Googleもそれに追随する形でプライバシー強化を打ち出していたが、同社の方針転換により、行動追跡を巡る両社の対立が再び激化する可能性は高い。

Googleの戦略。最悪をシナリオを防ぐために

第二の理由が、AppleとGoogleの間で長年続いてきたSafariのデフォルト検索エンジン契約が解消となる可能性だ。この契約が米司法省による独占禁止法訴訟で問題視され、見直しを迫られている。

GoogleはiOSのデフォルト検索を失う最悪のシナリオに備え、代替策として「Chromeのシェア拡大」によってiPhoneユーザを同社の検索に引き留める戦略を強化していると見られる。

今はiOS上でSafariの利用シェアが圧倒的だが、Appleに対して欧州連合(EU)を中心にプラットフォームの開放を求める圧力も日増しに強まっている。将来、デスクトップと同様に、iOS上でもChromeがシェアを伸ばす可能性も否定できない。ユーザがChromeを使用すれば、自身で対策しない限り、サードパーティCookieによる追跡の網からは逃れられないのだ。そうなれば、「iPhone=プライバシー保護の砦」と見られた時代が過去のものとなるかもしれない。

シリコンバレーの業界誌The Imformationによると、SafariでGoogle検索が使えなくなるリスクに備え、GoogleはiPhoneユーザに自社のChromeやGoogleアプリで検索するよう働きかけているという。

※この記事は『Mac Fan』2025年7月号に掲載されたものです。

著者プロフィール

山下洋一

山下洋一

サンフランシスコベイエリア在住のフリーライター。1997年から米国暮らし、以来Appleのお膝元からTechレポートを数多くのメディアに執筆する。

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