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Safariのテキスト折り返しが美しく進化するかも? 長年サポートされてこなかった“ある理由”とは?

著者: 山下洋一

Safariのテキスト折り返しが美しく進化するかも? 長年サポートされてこなかった“ある理由”とは?

AppleはWebページのテキスト表示を、より読みやすく進化させようとしている。Safariのテクノロジープレビュー版に、新たなCSSプロパティ「text-wrap: pretty」の実装を開始。その取り組みが注目されている。

より美しく読みやすく。対処されていなかった“ある課題”

文章の読みやすさや美しさは、タイポグラフィの質に大きく左右される。Webブラウザにおけるテキスト折り返し処理は、長年にわたり「貪欲法」と呼ばれる比較的単純なアルゴリズムに依存してきた。この方式は、各行のスペースが許す限り単語を詰め込み、収まらなくなった時点で次の行へ送る処理を行う。

その結果、段落の最終行に単語が一つだけ残ってしまう「オーファン」や、行末の不揃いが目立ちやすくなるなど、均整の取れた印刷物に比べて読みづらいものになっていた。

「短すぎる最終行」、「不揃いな行末」、「不自然な単語の切り方」、「縦に連なる空白」など、従来のWebでは均整を損なう要素が多々見られた。

この課題に対処するため、Safariのレンダリングエンジン「WebKit」で新たにCSSプロパティ「text-wrap: pretty」がサポートされ、テクノロジープレビュー版で実装が開始された。Safariはテキストブロック全体を評価し、読みやすい改行位置を判断して適用できるようになる。




なぜ長年サポートされてこなかった?

こうした高度なテキスト折り返し機能が長年にわたりサポートされてこなかった理由は、計算コストの高さにある。段落全体の最適な改行位置を見つけ出すアルゴリズムは、行ごとに処理する貪欲法と比較して格段に複雑な計算を必要とする。2023年にChromiumが「text-wrap: pretty」サポートを追加していたが、性能への影響を考慮し、段落末尾数行のみの適用に制限していた。

しかし、近年のデバイス処理能力の向上とWeb標準技術の成熟により、高度なタイポグラフィ機能の実装が現実味を帯びてきた。Web開発者やデザイナーからは、洗練された組版制御への要求が高まっている。こうした状況を受け、WebKitはクロミウムのような制限を設けず、テキストブロック全体を対象とする包括的なアプローチで「text-wrap: pretty」をサポートする。行全体により自然で美しいテキストフローの実現を目指している。

上は、Safariでの従来のテキストフローによる表示、下は「text-wrap: pretty」による表示。実際に文章を読んでみると「読みやすさ」を実感する。

 結局、日本語には恩恵があるの?

「text-wrap: pretty」プロパティは、特定の言語に依存しない汎用的な機能として設計されている。しかし、その主目的はオーファンの防止やラグの改善にあり、欧文テキストに比べて改行自由度が高く、かつ「禁則処理」が重視される日本語組版での効果は限定的である。

とはいえ、テキストブロック全体を評価するWebKitの実装では、日本語においても極端に短い最終行を回避したり、より均整の取れた段落形状を実現する可能性がある。また、ブラウザが高度な分析とレイアウト調整能力を持つことは、将来的に日本語特有の組版ルールへの、より洗練された対応へとつながる可能性を秘めている。

これまでWebでは、表示速度やインタラクティブな表現が優先される傾向にあった。しかし、「読みやすさ」という基本的な価値が重んじられ、その質向上を目指す動きが活発化しているためだ。

このような可読性の向上は、ユーザ体験を直接的に改善するだけでなく、コンテンツを提供するメディアや企業のブランドに対する信頼感を高める要因にもなるだろう。

「text-wrap: pretty」は日本語においては効果が限定的である可能性が指摘されており、実際サンプルでも課題が見られるものの、一定の読みやすさの向上も確認できる。

※この記事は『Mac Fan』2025年7月号に掲載されたものです。

著者プロフィール

山下洋一

山下洋一

サンフランシスコベイエリア在住のフリーライター。1997年から米国暮らし、以来Appleのお膝元からTechレポートを数多くのメディアに執筆する。

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