Appleデバイスのアイコンや絵文字の秘密というのは、よく語られるため、知っている方も多いかと思う。たとえば、「カレンダー」アプリや「時計」アプリのアイコンが、現在の日付や時刻に合わせてリアルタイムに変わっていくというのは、誰もが知っており、便利に感じていることだろう。
しかし、隠された秘密はこれだけではない。知っている方も多いかと思うので、筆者の主観でレベル分けをしてみた。どこまで知っているか、上から順に読んでいただき、ご自身のマニアぶりを確認していただきたい。
ビギナー級
「ボイスメモ」アプリのアイコン

ボイスメモのアイコンには音声波形が使われている。これは「apple」という単語の音声波形であると言われる。
そこでブリタニカ辞典から、ネイティブスピーカによるappleの発音データを取得して波形を描いてみた。かなり一致している。

画像:ブリタニカ辞典より作成。
「サポート」アプリのアイコン

青い四角の右上にAppleマークがあるサポートアプリ。Apple Storeのスタッフが着ている制服を図案化している。スタッフの制服もAppleマークが右上にある。

画像:Apple
「Safari」アプリのアイコン

「Safari」のアイコンは方位磁石を図案化したものだが、2017年9月リリースのiOS 11では、針が示す角度が大きくなった。以前は40度だったが、45度に変更されたのだ。
これは「偏角」を表していると言われる。方位磁石が示す北(磁北)は、日本の場合、地理上の北極点よりも西にずれている。東京の場合、約7.6度になる。一方、カリフォルニア州では東に13度ほどずれている。
しかも、この磁北は移動しているため、カリフォルニア州では年々東にずれが大きくなっていくのだ。角度を大きくしたのは、このずれを考慮したものだと言われている。

しかし、Safariアイコンの角度は45度になっている。このような場所は北極点近くか、南極点付近にしか存在しない。角度が大きいのはデザイン的な心地よさを優先したのだと思われる。
インターミディエイト級
「そろばん」の絵文字

特に変わったところはないそろばん絵文字だが、よく見ると、入れられている数値は「1974」。これはAppleの創業年になる。
「バス停」の絵文字

これもバス停の図案化だが、バス停というのは国によって形状が大きく変わる。同じ国の中でも運営会社によって大きく変わる。
日本ではこの形状のバス停はあまりなく、うっかりするとバスレーンか何かの交通標識だと受け取ってしまう人もいるだろう。
そこで、カリフォルニア州クパティーノ市のApple Park近くのバス停「Wolfe & Homestead Stop」を見てみると、絵文字とそっくりのバス停があった。この絵文字のデザイナーは、このバスで通勤しているのかもしれない。

「カレンダー」の絵文字

7月17日は、世界絵文字デーが開催される日。絵文字サイト「Emojipedia」の創設者ジェレミー・パージ氏の提案によるもの。この日は、SNSで多くの人が#WorldEmojiDayのハッシュタグをつけ、絵文字を多用した投稿をして、この日を祝う。
ところが、面白いのは、世界絵文字デーが7月17日だから、Appleがカレンダー絵文字をこの日にしたのではなく、もともと絵文字のほうが7月17日であったから、ジェレミー・パージ氏はこの日を世界絵文字デーに定めたのだ。
では、カレンダー絵文字はなぜ7月17日なのか。世界絵文字デー公式サイトのFAQには、2002年にAppleが発表した「iCal for Mac」が発表された日であるために、Appleはカレンダー絵文字を7月17日にしたと書かれている。
確かにMacOS Xのカレンダーアイコンは7月17日に固定されていた(現在は日付が変わる)。

アドバンスト級
「マップ」アプリのアイコン

この図案は、Apple本社であるApple Park付近を模したもの。実際の地図と比較してみると、かなり正確に図案化されていることがわかる。
以前のアイコンには「280号線」という道路番号まで入っていた。斜めに横切っている道路が280号線だ。

「株価」アプリのアイコン

AppleがDELLの株価を抜いた2006年1月13日金曜日付近の株価を図案化したものだと言われている。当時の株価を見てみると確かに似ていると言えば似ている。
本当は2月になって株価は低迷してしまったが、アイコンの図案ではさらに上がり続けていることになっているが、この辺りはデザイン的な演出のひとつだろう。

では、AppleにとってDELLの株価を抜くことがなぜ重要なのだろうか。スティーブ・ジョブズがAppleに復帰して立て直しを図っている最中の1997年10月、ガートナー・シンポジウムに出席したDELLの創業者マイケル・デル氏は、聴衆から「あなたがAppleを経営することになったら、何をしますか?」と尋ねられて、こう答えた。「私なら、会社を閉じて、株主にお金を返します」。
つまり、何もやりようがない、どうにもならないという意味だ。この言葉はジョブズの心に火をつけた。
DELLはオンライン販売を中心にすることで成功したPC販売企業だ。同年11月に開催された製品発表会でスティーブ・ジョブズは、オンラインのApple Storeを開始することを発表した。そして、マイケル・デルの発言を取り上げ、こう言った。「私たちはあなたを追いかけているんだよ、相棒(We’re coming after you buddy)」。
これは当時のどん底だったAppleのスタッフたちを勇気づけたという。それ以来、DELLに追いつけが一種の合言葉になっていたそうだ。
なお、ジョブズ氏は、この言葉を非常にユーモラスに発言しており、会場も大爆笑している。デル氏も別のインタビューで、当時は自分の会社のことで頭がいっぱいで、よその会社を経営するなどということは考えたこともなかったため、ああいう発言になったと説明している。
また、2人はもともと仲のいい友人であり、その後も良好な関係を保っている。スティーブ・ジョブズはユーモアにより、Appleのスタッフを奮い立たせたことになる。
「メモ」の絵文字

メモの絵文字には何か文章が書いてある。拡大すると読むことができる。そこにはこう書いてある。
「Here’s to the crazy ones. The misfits. The rebels. The troublemakers. The round pegs in the square holes. The ones who see things differently. They’re not fond of rules.(クレージーな人たちがいる。役立たず。反逆者。やっかいもの。四角い穴に丸い柱を入れる人。物事を違った視点で見る人たち。彼らはルールにとらわれない)」。
これは、スティーブ・ジョブズがAppleに復帰した1997年から行った広告キャンペーン「Think different」で使われたコピーだ。
企業広告としては、あり得ない攻めたものになっている。特に重要なのは「四角い穴に丸い柱を入れる人」の部分だ。これは「丸い穴に四角い柱を入れる」という英語の慣用句があり、やっても無駄な愚かなことを表している。
Appleはこの慣用句を逆にした。四角い穴に丸い柱を入れるのだから、やろうと思えば入れることができる。安定はしないかもしれないが、工夫次第で安定させることもできる。そういう意味を表している。この言葉自体が、英語の慣用句というルールを破っている点も面白い。
Appleは、このThink differentキャンペーンで、以前と変わらない革新性を持った企業であることをアピールした。
エキスパート級
「レシート」の絵文字

レシート絵文字には、「MISFIT」「SQUAER PEGS」「ROUND HOLES」の3つの商品が買われている。
Think differentキャンペーンに出てくる、役立たずは丸い穴に四角い柱を入れようとするという英語の慣用句が使われている。
「Face ID」のアイコン
顔認証が必要なとき、Dynamic Island付近にFace IDのアイコンが現れるようになった。このアイコン、昔からのMacユーザはご存じのはずのハッピーマックと似ていることが指摘されている。

Face IDで顔認証をしている時にiPhoneに現れるアイコン。ハッピーマックとの類似性が指摘されている。
笑顔のハッピーマックは、Mac OS 9以前のMacを起動すると登場するアイコンで、当時はハイテク機器であるコンピュータにこのような人格を感じさせるものが登場することは珍しく、Macユーザの誰もが愛するキャラクターになっていた。

一方、ハードウェアやシステムに問題があり、起動ができない場合は泣き顔のサッドマックが現れる。
「クレジットカード」の絵文字

クレジットカードの絵文字にはJohn Appleseedという署名がある。しかも、このカードの番号は5646-0002-7753-7333であることも記載され、セキュリティコードも448であると記載されている。もちろん、このカード番号は実在しない無効な番号になっている。
また、身分証明書の絵文字にはジョン・アップルシード(表記はJo Appleseed)の住所がカリフォルニア州メイン通り125であることも記載されている。

ジョン・アップルシードとは誰なのか。この住所は実在し、「メイン通りクパティーノ」というショッピングセンターであることがわかる。ジョン・アップルシードはこのショッピングセンターに住んでいるらしい。

なお、これはAppleのデザイナーたちのお遊びで、ジョン・アップルシードは米国の中では伝説になっている実在の人物。本名はジョン・チャップマンで、開拓時代にリンゴの種を広め、果樹園を普及させた人物として知られる。
その人柄も多くの人から愛され、裸足で歩き、鍋を帽子がわりに被り、コーヒー袋をマントにしていたという。一方で、敬虔なキリスト教徒で、開拓民の人々に果樹園とキリスト教の教えを広めた。奇抜な風体で、社会に大きな貢献をした好人物。まさに、Think differentな人であり、Appleが愛すべき人物なのだ。
また、名刺の絵文字にはジェーン・アップルシードという女性の名前も見える。

マスター級
「プレビュー」アプリのアイコン

「プレビュー」のアイコンには海岸が写っている。この岩場の多い特徴的な風景から、モントレー湾かビッグサーあたりのどこかの海岸ではないかと言われている。
しかし、海岸の風景は潮の満ち引きにより光景が大きく変わるため、具体的な場所までは誰も特定できていないようだ。
「メール」アプリのアイコン

「メール」アプリのアイコンは、封筒を図案化したもので、どこにも変わったところはないように見える。しかし、拡大してみると、「APPLE PARK, CALIFORNIA 95014」という住所が書かれているのがわかる。
言うまでもなく、Apple Parkの住所だ。
「電話」アプリのアイコン

これも変わったところはないアイコンに見える。しかし、不思議に思わない人はもはや中高年だ。今から37年前の1987年、電波法が改正され、コードレス電話が量販店で販売できるようになった。
信じられないことに、それ以前のコードレス電話は、民間企業が販売することはできず、元電電公社であったNTTによるレンタルしかなかった。この改正により、日本の家電話は一気にコードレス化していった。
コードレス電話の受話器はこのような丸みを帯びた形ではなく、おそらく30歳以下の人は、映像の中でしかこのデザインの受話器を見たことがないはずだ。そのため、「この電話アイコンに描かれている図形は何なの?」と疑問に思う人も多いだろう。
10年後には、本サイト上でも「電話アイコンの図形の秘密」という解説記事が出ることになるかもしれない。
今回ご紹介したほかにも、アイコンや絵文字に隠された秘密はたくさんあるはずだ。Appleのスタッフたちが楽しんで仕事をしていることがうかがわれて、こちらも楽しくなる。
紹介した以外の秘密を発見された方は、ぜひ編集部まで教えていただきたい。この場で、みなさんに共有させてもらえたらうれしい。
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著者プロフィール

牧野武文
フリーライター/ITジャーナリスト。ITビジネスやテクノロジーについて、消費者や生活者の視点からやさしく解説することに定評がある。IT関連書を中心に「玩具」「ゲーム」「文学」など、さまざまなジャンルの書籍を幅広く執筆。