アルミ筐体でカラフル化へ。意外性のある演出が話題に
2005年に発売された初代iPod shuffleは、曲のランダム再生を「シャッフル」というキャッチーな呼び方に変え、ディスプレイを割愛することで板ガムパッケージ並みのサイズと低価格を実現し、人気を博した。その筐体の素材は、コストダウンの一環として金属を用いないオール樹脂製だったことも、ほかのiPodとは大きく異なっていた。
2006年にこのiPodのエントリーモデルをフルチェンジするにあたり、Appleは一層の小型化に挑戦すると同時に、上位のiPodとデザインや素材の共通化を図った。その結果、もはや一般的なUSBコネクタを筐体内に収めることはできなくなり、専用の充電ドックを同梱して対処した。
そうして出来上がったのが、音楽再生機能のコアとなる機構を、わずか41.2×27.3×10.5mmのサイズに凝縮したiPod shuffle(第2世代)だった。
再生・選曲などを行うコントロールパッドの形状を初代モデルから継承しつつも、衣服の襟や袖、ポケット、あるいはバッグの縁などに挟んで固定できるクリップが一体化されたことがデザイン上の最大の特徴であり、これによりリスニングスタイルに広がりが生まれた。それをアピールするCMでは、上着を着たり脱いだりするたびに次々と人物が入れ替わり、服の異なる場所にiPod shuffleをクリップで留めるという意外性のある演出が話題となった。
ヘッドフォン一体化のアイデアも。擬似的に“ヘッドフォンのみ”で音楽再生できた
iPodのほかのモデルでは、本体がバッグやポケットの中に入っていても、付属の白いイヤフォンによって、街中でも誰がiPodユーザなのかがわかるという巧妙なマーケティングが行われた。これに対して、このiPod shuffle(第2世代)は、製品そのものが目に触れるファッションアイテムとしても機能する仕組みで、シルバーやグリーン、ブルーなど、鮮やかな色のバリエーションもその一助となっていた。
また、ここまで小型化されたことで、別のインスピレーションを得た人たちもいた。それは、ヘッドフォンと一体化するというアイデアだ。
当時はまだワイヤレスイヤフォンやヘッドフォンは一般に普及しておらず、当然ながらiPod側にもBluetooth機能などは内蔵されていなかった。しかし、iPod shuffle (第2世代)であれば、ヘッドバンド付きのヘッドフォンに直接装着、あるいは工作に自信がある人は埋め込んで両者を最小限の長さのケーブルで接続することもできるので、擬似的にヘッドフォンのみで音楽再生をしているような環境を作り出せた。
iPod shuffleのコントロールパッドは、初代から、目視しなくても手探りで扱えるように考えられていた。そのため、ヘッドフォン自体に装着・埋め込みされている状態でも、手を伸ばせば操作できたのである。
今回の原稿を書くにあたって、Mac Fanを発刊しているマイナビ出版では、2021年現在でもiPod shuffle(第2世代)を使っているというスタッフがいることが判明した。iPhone全盛期になっても独自の魅力を放ち、シンプルな構造だからこそのメリットが感じられる。それがiPod shuffle(第2世代)という存在なのである。
※この記事は『Mac Fan』2021年12月号に掲載されたものです。
著者プロフィール

大谷和利
1958年東京都生まれ。テクノロジーライター、私設アップル・エバンジェリスト、原宿AssistOn(www.assiston.co.jp)取締役。スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツへのインタビューを含むコンピュータ専門誌への執筆をはじめ、企業のデザイン部門の取材、製品企画のコンサルティングを行っている。