※この記事は『Mac Fan』2025年5月号に掲載されたものです。
「Apple Intelligence」は、オンデバイス処理、そしてプライベートクラウドを用いることで、個人情報を保護しながら利用できるAppleの生成AIだ。
2025年4月に日本語対応したばかりのこの注目機能をレビューしていこう。
※本記事は、取材に基づく特別な許可を得てパブリックベータ版をレポートしています。実際のリリース時とは操作方法や画面の表示内容が異なる可能性があることをご承知おきください。
ようやく日本でも「Apple Intelligence」が使える
ようやく、日本語版のApple Intelligenceが登場する。Appleのアナウンスによると、「2025年4月初旬」。つまり、皆さんがこの記事を読んでいるころにはすでにローンチ済みだろう。
2022年にChatGPTが公開されたことで、世間では生成AIが一躍話題となった。その後、IT業界のトレンドは生成AI一色になったが、Apple Intelligenceが発表されたのはWWDC24(世界開発者会議)。2024年6月のことである。
とはいえ、もともとAppleがAI技術を持たなかったわけではない。2017年発売のiPhone Xからデバイスにニューラルエンジンを搭載し、画像や言語の解析に利用してきた。その技術を、より積極的に使おうというのがApple Intelligenceだ。
Apple Intelligenceは、iOS 18.4、iPadOS 18.4、macOS Sequoia 18.4へのアップデートで提供され、対応チップはA17 Pro以降、もしくはMシリーズ。米国ではVisionOS 2.4でも使えるが、日本での対応は後日となる。
“カメラで調べる”便利機能「Visual Intelligence」
もっとも手軽にその便利さを感じられるのは、iPhoneの「Visual Intelligence」だろう。
カメラコントロールボタンを長押しして機能を呼び出し、iPhoneのカメラで対象物を映すと[質問]と[検索]というボタンが表示される。[質問]をタップすると画像がChatGPTに送られ、それが何かを教えてくれる。そして[検索]をタップすると、Googleで画像検索が行われる仕組みだ。

特に[質問]が面白く、いろいろなものを調べたくなる。SNSで、「こんな認識をした!」という投稿が流行りそうだ。
なお、文章を見せると要約して内容を教えてくれるほか、外国語の翻訳にも対応。さらには地図を見せるとどこの地図か教えてくれる。また、名刺を見せると、電話番号、メールアドレス、マップで参照できる住所のリンクが生成された。見せたものによって、適宜対応を変えてくれるところも便利だ。


かなり賢い作文ツール
次に便利なのが「作文ツール」。文字入力を使う多くのアプリで利用できる。
たとえばメールの文面であれば、「山田さんのメールの返事、4月15日のイベント、忙しくていけない、盛り上がったらいいなって思ってる」と音声入力して[プロフェッショナル]をタップすると、体裁を整えた文面にしてくれる。ChatGPTと連係すれば、さらにちゃんとした文章にすることも可能だ。校正や、要約、表組みなどの機能もあり、さまざまなシーンで省力化を図れるだろう。



絵文字を生成する「ジェン文字」や、書類の内容を読み取ったうえでラフスケッチを元にイラストを生成する「マジックワンド」、テキストから絵を生成する「Image Playground」といったグラフィック系の機能は、プレゼン資料などの作成に役立つだろう。しかし、画像のテイストが“日本的”ではないため、敬遠する人も多そうだ。


フェイクフォトなどの問題を回避するため、フォトリアリスティックな絵柄の生成を避けるようになっているわけだが、できれば日本の文化圏に適した絵柄を学習させてくれればと思う。
ほかにも、音声からの文字起こし機能、留守番電話のテキスト化機能など、OSにインテグレートされて、自然と使える機能も数多い。
しかし、Appleが当初アナウンスしていた「個人情報に基づいて動作する高度なSiri」は現在のところ未実装だ。「今日の天気を教えて?」と言ったあと、「札幌は?」と聞くと札幌の天気を教えてくれるなど、文脈を理解して回答してくれはするが、ChatGPTが備える「アドバンスドボイスモード」のようなスムースな会話はまだ期待できない。
Apple Intelligenceの現状は「今後に期待」
まとめると、一部便利な機能はあるが、まだ「Appleデバイスが飛躍的に便利になった」という状態ではない。
ここまで書いてきたとおり、一部の機能はChatGPT頼りの部分もある。ただ、今後はほかの生成AIも利用可能になるようなので、考え方を変えれば、Appleデバイスが複数の生成AIを統合的に使えるプラットフォームになっていく、とも取れる。プロンプトをAppleデバイス(もしくは、Apple Intelligence)が生成してくれるような使い方だ。
Apple Intelligenceはほかの生成AIと違い、可能な限りiPhoneやMacなどオンデバイス上のニューラルエンジンで処理するシステムだ。それで足りない場合、情報を外に出さない「プライベートクラウド」で対応する。
今のところ、そのあたりのメリットが十分に活かされる機能は少なく、まだまだ道半ばという印象。個人情報の保護を強く打ち出すAppleだけに、学習データの利用などに遅れを取っている感は否めない。
とはいえ、ついにAppleの生成AIが日本での“一歩目”を踏み出した。今後、新たな機能が追加されていくのを楽しみにしたい。
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著者プロフィール

村上タクタ
Webメディア編集長兼フリーライター。出版社に30年以上勤め、バイク、ラジコン飛行機、海水魚とサンゴ飼育…と、600冊以上の本を編集。2010年にテック系メディア「ThunderVolt」を創刊。