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iPadが持つ“強み”で生徒を「学びの入口」へと導く新渡戸文化中学校・高等学校の授業/部活動のICT化

著者: 三原菜央

iPadが持つ“強み”で生徒を「学びの入口」へと導く新渡戸文化中学校・高等学校の授業/部活動のICT化

東京都中野区に校舎を構える新渡戸文化中学校・高等学校は、生徒1人につき1台のiPadを整備している。同校の酒井雄大教諭は、担当する国語科の授業だけでなく、生徒会や、顧問を務める剣道部でもiPadを積極的に活用しているが、導入当初は二の足を踏んでいたという。酒井教諭の授業実践と価値観の変化に迫る。

酒井雄大 教諭

新渡戸文化中学校・高等学校 国語科教諭/剣道錬士六段。
寝具メーカーでの営業職を経験した後、通信制大学で免許を取得し、2018年に新渡戸文化中学校・高等学校に入職。剣道錬士六段の腕前を活かし、剣道部の顧問を務める。
Apple Distinguished Educator 2023。

Apple Distinguished Educator(ADE)…Appleが認定する教育分野のイノベーター。世界45カ国で2000人以上のADEが、Appleのテクノロジーを活用しながら教育現場の最前線で活躍している。

iPadで撮影して生徒にフィードバックする

2020年より大きな教育改革を進める新渡戸文化学園。主体的に学びに向き合う姿勢を育み、自律型学習者を生み出す同学園の改革の一手であるICT教育によって、小中高に1人1台のiPadが整備され、学内のどこにいてもWi-Fiが利用できるようになった。それゆえに、部活動でのiPad活用も進んでいる。新渡戸文化中学校・高等学校の酒井雄大教諭は、顧問を務める剣道部で、練習試合や試合本番の様子をiPadで撮影し、「Google フォト」で生徒に共有しているそうだ。

「私自身、小学1年生から剣道をしていたのですが、選手のときに自分の試合をもっと録画して、分析したかったという思いがありました。当時はもちろんiPadはないので、録画するならビデオカメラを使いましたが、現在は稽古研究のために三脚を立ててiPadで稽古風景を撮影し、空いている時間にフォームの研究などを行っています。そのシステムを生徒たちにも導入して、撮影した動画を見ながら、フィードバックしています。『あのときこうだったから直そう』と言われても、選手がそのシーンを明確に頭に浮かべることは難しいと思うので、試合の詳細を動画で可視化することで共通の認識の中で指導にあたることができます。また、iPadなら『カメラ』アプリでスローモーションも撮影できるので、瞬間的な動きに対してもフィードバックができるのもよいところです」

「iMovie」と「Keynote」を活用し、指導項目を動画にまとめ、生徒に渡すこともあるという酒井教諭。その熱心かつiPadを活用したわかりやすい指導もあり、試合で結果を残すことが増えてきた同校の剣道部には、入部希望者も増えているそうだ。

動画編集を活用した剣道部の指導実践例と実践方法をまとめ、Apple Booksで公開している酒井教諭。iMovieとKeynoteを活用し、動画指導を実践している。

「楽しい」が学びの入り口

酒井教諭のiPad活用はもちろん部活動指導だけではない。担当する高校1年生の国語科の授業では、「待ち伏せ」という物語を読み、印象に残ったシーンを決め、音楽制作アプリ「GarageBand」でBGMを創作し、朗読する実践を行ったそうだ。

「印象に残ったシーンは、生徒それぞれが決めます。そのシーンを中心に物語をさらに読み込み、自分なりの解釈を作り、それをBGMで表現するためにガレージバンドで制作するという実践です。文字で表現するというのは国語科の特性ですが、自分の感じたことを文字ではなく音楽で表現することで、作品への理解をさらに深めることができます。また、作品はオンライン掲示板アプリ『Padlet』で共有していて、印象に残ったシーンがそれぞれ異なることにより、他のクラスメイトの作品を見て『なぜそのシーンを選んだの?』と、もう一度物語を読み返すような様子も見られました。この実践では、『物語をよく読む』という仕掛けを作っています。また振り返りでは4つの問いを設けて、作品理解だけでなく、自分にどのような変化があったかをメタ認知する機会を設けました」

高校1年生の国語科の授業では、「待ち伏せ」という物語を読み、印象に残ったシーンを決め、GarageBandでBGMを創作し、朗読する実践を行ったそうだ。

昨年担当した中学3年生の授業では、文章作成アプリ『Pages』を活用し、デジタルブックで卒業文集を制作し、Apple Booksに出版したという。1人あたり3ページを使って中学3年間を振り返り、ポートフォリオにまとめたそうだ。この取り組みが中学校の生徒の恒例の取り組みになればと、酒井教諭は意気込む。

「今後生徒には、『Pages』を使って、さまざまなプロジェクトのチラシや学校行事のしおり、レポートの作成にも挑戦してほしいです」

中学3年生の授業では、文章作成アプリ「Pages」を活用し、デジタルブックで卒業文集を制作。1人あたり3ページで中学3年間を振り返り、ポートフォリオにまとめた。

なぜ学校教育にiPadを使うのか?

iPadを活用した多様な実践に取り組む酒井教諭だが、導入当初はパソコンの扱いも慣れておらず、iPadの導入に対して少なからず疑問を抱いていたという。そこからADE(Apple Distinguished Educator)に認定されるまでにどんな価値観の変化があったのだろうか。

「iPadの導入初期は『なぜiPadを使わないといけないのか?』というのが私の問いでした。実際に、本校の教員として『iPadを1人1台導入します』と言うからには、iPadを導入する理由をきちんと説明できないといけないと思っていましたが、なかなかその答えにたどり着けずにいました。そのときにADEの存在を知り、私自身がADEになれば、納得した説明ができるようになるのではないかと思い、挑戦しました」

酒井教諭は教員になる前に一般企業で営業職に就いていた異色の経歴を持つ。そのため、当初はほかの先生たちと比べ、コンプレックスを持っていたという。それを乗り越えたいという思いも背中を押した。

ADEの認定を受けてからは「なぜiPadを使わないといけないのか?」という問いに対する答えも、自分なりに持つことができたという。

「iPadの強みは『デザインする楽しさを教えてくれる』ところにあると思います。そして、その楽しさが生徒を学びの入り口に連れて行ってくれます。ただ、iPadをいつもの授業にそのまま取り入れるのは工夫が必要かもしれません。実際に私も授業の内容によってはiPadではなく、プリントを使うときもありますし、違うツールがべストなときもあります。私の場合は、生徒の頭や体を活性化させたいときにiPadを使うことが多いです。このようにiPadの強みを活かして使い分けできると、昔の私のようにICTに対して苦手意識をお持ちの先生方も、気持ちが楽になるのではないかと思います」

プロジェクトデザインチームに所属し、生徒会の担当を担う酒井教諭。生徒会の活動でもKeynoteでプレゼン資料を作成するなど、iPadを活用している。

著者プロフィール

三原菜央

1984年岐阜県出身。 大学卒業後、8年間専門学校・大学の教員をしながら学校広報に携わる。 その後ベンチャー企業を経て、株式会社リクルートライフスタイルにて広報PRや企画職に従事。 「先生と子ども、両者の人生を豊かにする」ことをミッションに掲げる『先生の学校』を、2016年9月に立ち上げた。

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