米国フロリダ州マイアミで開催されたクリエイティブの祭典「Adobe MAX」で、アドビは「Adobe Express(アドビ・エクスプレス)」の強化を発表した。今後、無料のクリエイティブツールであるAdobe Expressを通じて、“ノンクリエイターのクリエイティブ”をさらに強力にサポートしていく方針だという。
“ノンクリエイターのクリエイティブ”もAdobeのテーマに
ご存知のように、「Photoshop」「Illustrator」「InDesign」などのプロフェッショナルクリエイター向けアプリケーションをすべて含めた「Adobe Creative Cloud(クリエイティブクラウド、以下Adobe CC)」は、世界中の多くのクリエイターにとって不可欠な存在だ。雑誌や、ポスター、チラシなどの印刷物、看板、ロゴデザイン、テレビや映画などの映像…など、我々が目にするほとんどのクリエイティブはAdobe CCによって作られているといっても過言ではない。
だがそれは、月額7780円を支払ってAdobe CCを使うプロフェッショナルクリエイターと、それ以外の人たち(ノンクリエイター)の間に大きな差を生んでいる。
しかし、ノンクリエイターがクリエイティブを製作しなければならないことは意外と多い。
たとえば、デザイナーではない一般のマーケティング担当者や事務職専門の方が、Webサイトのバナーを製作したり、ロゴやチラシやポスターを作ったりする必要に迫られることもあるだろう。また、PTA、趣味の集まり、学校の課外活動でも同様だ。プロではない「ちょっと器用な人」「ちょっと絵心のある人」が、苦労してそれらの制作物を作っている。
Adobeは全人類をクリエイターにしようとしている⁉︎ 無料ツール「Adobe Express」強化の狙い
Adobeは、今後Adobe Expressをより強力にプッシュし、それらの「ノンクリエイター」というか、月額7780円を払うほどではないがクリエイティブを作る必要に迫られている人、をバックアップすると発表した。
一説によると、クリエイターの多くがAdobe CCを使うようになったので、さらにユーザを増やすために、新たな市場として「ノンクリエイター」を取り込もうとしているらしい。
Adobeは、最終的に世界中のすべての人をクリエイターにしようとしているのだ…! 陰謀論的かもしれないが、それはそれで素晴らしい世界であり、Adobeの業績が向上することも確かである。
Photoshop、Illustratorに続き、InDesignファイルにも対応!
Adobe Expressは基本的に無料で使えるが、本格的に使い込むなら月額1180円のサブスクリプションの契約が必要だ。もしくは、Photoshop、Illustrator、Premiere Pro、Acrobat Proなど、なんらかのAdobeの有料プランに加入していれば無料で使用できる。
デザインの知識がなかったり、PhotoshopやIllustratorなどの複雑な操作方法を知らなくても、Adobe Expressであれば驚くほど簡単に、ロゴや、バナー、ショート動画などのクリエイティブを制作できるのが特徴だ。
Adobe MAXでは、このAdobe Expressにより多くの機能が追加されることが発表された。
これまでPhotoshopや、Illustratorのファイルは開けたが、今回さらにInDesignへの対応も発表された。従来、デザイナーから渡されたロゴデザインや誌面デザインは、ノンデザイナーが開いて確認することさえできない…ということがよく起こっていたが、これからはAdobe Expressさえあればいい。
出来上がったデザインを生成AIで48もの言語に変換し、オーディエンスリーチを拡大することもできる。また、スプレッドシートでデータを読み込ませれば、デザインの一部の文言を変換し、バリエーションを作ることも可能だ。
さらに、さまざまなソーシャルメディアプラットフォームに合わせて縦横比を変更し、それに合わせたデザインの自動調整も生成AIが実現する。そして、対応するソーシャルメディアなら、Adobe Expressからの投稿や、スケジュール設定による日時指定投稿もできるという。
これらの制作物を共有し、チームやクライアントとの共同作業にも対応した。
「ブランド」としてデザインやカラーパレットなどを指定することで、複数人で作業しても、統一したデザインのクリエイティブを制作することができる。
生成AIがノンクリエイターを強力にサポート。“プロっぽいデザイン”を、誰でも作れる時代が来た!
Adobe ExpressはAdobe Stockの写真や動画が使用できるので、写真やグラフィックを持っていない…という場合にも安心だ。また、Adobeの画像生成AIであるAdobe Fireflyによって画像を生成できるため、意図した写真がAdobe Stockになくても工夫次第で対応できる。
「それ、オレの仕事?」と思いながらも断り切れず、フライヤーやバナーなど、さまざまなグラフィックを制作しているノンデザイナーの皆さん。これからはAdobe Expressでびっくりするほど効率的に、“プロっぽいデザイン”を制作して周囲の人を驚かしてやろう。
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著者プロフィール
村上タクタ
Webメディア編集長兼フリーライター。出版社に30年以上勤め、バイク、ラジコン飛行機、海水魚とサンゴ飼育…と、600冊以上の本を編集。2010年にテック系メディア「ThunderVolt」を創刊。