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iPhone 16 Pro分解レポート/ポイントはバッテリ、ロジックボード、内部構造変更

著者: 今井隆

iPhone 16 Pro分解レポート/ポイントはバッテリ、ロジックボード、内部構造変更

Photo●iFixit

修理情報の提供やツールの開発販売を手がけるiFixitは10月1日、iPhone 16に続いてiPhone 16 Proの分解調査結果を公表しました。その情報をもとに、iPhone 16 Proの内部に秘められた新テクノロジーを探ります。

銀色に輝く内蔵バッテリ

iPhone 16 Proのリアガラス(MagSafe面側)を外すと真っ先に目に飛び込んでくるのは、見慣れない銀色の内蔵バッテリです。従来のiPhoneの内蔵バッテリは、ジェル状の電解液を電極で挟み込んでシート化したリチウムイオンポリマーバッテリで、外装はアルミニウム製のラミネートパッケージの上から黒いシートで覆った構造のものが採用されていました。ラミネートパッケージはちょうど歯ミガキ粉のチューブに似た材質で、非常に薄く柔らかく柔軟性があります。

これに対してiPhone 16 Proに採用されたバッテリは中身こそ同じリチウムイオンポリマーバッテリですが、その外装が丈夫なアルミケースになっているのが大きな特徴です。

iPhone 16 Proのバッテリは従来のラミネートパッケージではなく、アルミケースに格納されています。ただしiPhoneへの取り付け方法は従来どおりプルタブ付きの両面テープを剥がす方式で、iPhone 16のような新しい技術は導入されていません。
Photo●iFixit

このアルミケースのバッテリは、2019年にリリースされたApple Watch Series 5の40mmモデルで初めて確認されていましたが、iPhoneシリーズでは初めての採用となります。

リチウムイオンポリマーバッテリのパッケージにアルミケースの採用が確認されたのは、Apple Watch Series 5の40mmモデルです。翌年リリースされたSeries 6でも写真のように、40mmモデル(左)はアルミケース、44mmモデル(右)にはラミネートパッケージが使用されています。
Photo●iFixit

なおこのアルミケースのバッテリを採用しているのはiPhone 16 Proの6.3インチモデルのみで、iPhone 16シリーズやiPhone 16 Pro Max(6.9インチモデル)のバッテリには従来と同じラミネートパッケージが使われています。

左からiPhone 16、iPhone 16 Plus、iPhone 16 Pro、iPhone 16 Pro Maxのバッテリです。この中でiPhone 16 Pro(6.3インチモデル)だけが新しいアルミケースのバッテリを採用しています。
Photo●iFixit

アルミケースのバッテリにはいくつかのメリットがありますが、中でも最大の特徴は安全性の向上です。ラミネートパッケージは薄くて軽量ですが、その柔軟性ゆえに外部からのダメージに弱いというデメリットがあります。もしもパッケージに大きな力が掛かって変形したり、何かが刺さるなどして内部構造が破壊されたりすると、バッテリ内部で短絡が発生し熱暴走を引き起こします。

その結果火災や破裂が起きてユーザに危険や被害が及ぶリスクもあります。たとえばiPhone本体を折り曲げるほどの強い力が掛かったり、重いものに踏まれたりすれば、両面をカバーするガラスパネルが割れてバッテリに刺さる可能性もあります。しかしバッテリが金属製のケースで覆われていれば、そのリスクを大幅に低減できるのです。

iPhoneをはじめとするほとんどのApple製品に使われているリチウムイオンポリマーバッテリはラミネートパッケージを採用していますが、バッテリの内部構造を破壊するような深刻なダメージを受けると発火するリスクがあります。
Photo●iFixit

またリチウムイオンポリマー電池の電解液や電極は、充放電の繰り返しや過酷な使用条件などによって徐々に劣化します。電解液が劣化するとガスが発生し、これが溜まることでバッテリが膨張します。バッテリの膨張自体は直接的な危険性は低いものの、内圧に耐えられなくなったガラスパネルが持ち上げられてディスプレイやタッチパネルなどに深刻なダメージを与え、iPhoneの故障の原因になります。

さらに膨張が進むと、iPhone内部の構造物や部品がバッテリのラミネートパッケージを損傷して熱暴走を起こす危険性もあります。バッテリのラミネートパッケージには破裂を防ぐための防爆機構が設けられていますが、これが作動する頃にはバッテリの厚みが数倍に膨張し、iPhone自体が大きく変形して使い物にならなくなっているはずです。

これに対してアルミケースはバッテリの膨張からiPhoneを守ったり、バッテリ自体の損傷を低減する効果が期待できます。さらにアルミケース側面の制御基板の下には安全弁(ベント)と見られる機構が見られ、アルミケースの内圧が上昇した場合に溜まったガスを逃がす役割を担っていると考えられます。

iPhone 16 Proのバッテリ制御基板の下には、アルミケースに丸い弁のようなものが確認されます。分解を行ったiFixitでは、劣化したバッテリから発生したガスの圧力を逃がすための機構(ベント)ではないかと指摘しています。
Photo●iFixit

ロジックボードの小型化

iPhone 16 ProシリーズはiPhone 15 Proシリーズよりボディサイズが少し大きくなっているため、カメラコントロールの追加はiPhone 16シリーズに比べるとその影響が抑えられています。しかしiPhone 16 ProにはiPhone 16 Pro Maxと同じテトラプリズム採用の5倍望遠カメラが採用されたことから、カメラブロック全体のサイズが大きくなっています。

iPhone 16 ProシリーズではiPhone 16シリーズとは異なる方法で、ロジックボードサイズが変更されています。従来のiPhoneでは2階建て構造のロジックボードの裏表合計4面のうち、3面にのみ電子部品が搭載されていましたが、iPhone 16 Proでは4面すべてに部品が搭載されています。これによりボード上の部品実装密度を向上させ、ロジックボードのサイズを縮小しているのです。

さらにA18 Proが搭載されている基板の裏面を覆うシールドが一体化および大型化され、Appleシリコンから発生する熱を速やかにアルミ製のメインフレームに逃がせるように改善されています。

iPhone 16 Proのロジックボードは、従来の2階建て構造の基板では部品の搭載されていなかった無線基板の裏側にも部品を搭載することでボード全体のサイズを小型化を実現すると同時に、シールドの大型化によって放熱を改善しています。
Photo●iFixit

メンテナンス性の大幅向上

Appleは2022年にリリースしたiPhone 14で、その内部構造を大幅に革新しました。従来はサイドフレームに強力な接着剤で結合されていたガラス製のリアパネルを別パーツとして独立させ、リアパネルを単体で取り外せるようにしたのです。

iPhoneのほとんどの部品がサイドフレームに取り付けられたインナーフレーム上に実装されるようになったことで、ディスプレイやタッチパネルなどを備えたフロントパネル、MagSafe受電コイルを備えたリアパネルのいずれ側からでも、内部にアクセスできるようになりました。

この設計変更には大きなメリットが2つあります。1つは落下などによってガラス製のリアパネルが割れてしまった場合でも、従来のようにすべてのパーツを取り外す必要なくリアパネルを交換できるようになります。もう1つは消耗部品であるバッテリを交換する際、非常にデリケートなOLED(有機EL)ディスプレイを備えたフロントパネルを外す必要がなくなり、より安全に外せるリアパネル側からアクセスできるようになった点です。

この革新的な構造はiPhone 14 Proでは採用が見送られ、iPhone 15 Proでようやく採用されました。しかしiPhone 15 Proはインナーフレームがリアパネル側に設けられていたため、リアパネルの交換は容易になったものの、バッテリ交換を行うにはフロントパネルを外さざるを得ない状態でした。

これに対してiPhone 16 Proでは、iPhone 14と同じくインナーフレームがフロントパネル側に移設され、リアパネル側から直接バッテリにアクセスできるようになりました。また各部品はインナーフレーム上に整然と配置され、部品同士の重なりが大幅に少なくなったことで、それぞれの部品の脱着が容易になりました。

リアパネルを外した状態を見ると、iPhone 15 Pro(右)では主要な部品がインナーフレームの向こう(フロントパネル側)に取り付けられているのに対して、iPhone 16 Pro(左)はバッテリをはじめとするほとんどの部品にアクセスできるのがわかります。
Photo●iFixit

このようにiPhone 16 ProシリーズもiPhone 16シリーズ同様にメンテナンス性が大きく向上し、性能や機能が向上しているにもかかわらず、より大容量のバッテリの搭載を実現しています。さらにiPhone 16 Proでは初めてアルミケース入りのバッテリが採用されましたが、これはiPhone 16に採用された新しいバッテリ固定方法と同様、現時点では試験的な試みのようです。

Appleは新しいiPhoneにさまざまな新技術の導入を試みながら、より優れた製品設計の探求を続けているものと考えられます。

iPhone 16 Pro(左)とiPhone 16 Pro Max(右)のカメラモジュールを比較すると、パーツの大きさなどにほとんど違いがないことがわかります。またLiDARスキャナはカメラモジュールとは独立した設計になっており、故障時の修理が容易になっています。
Photo●iFixit

著者プロフィール

今井隆

今井隆

IT機器の設計歴30年を越えるハードウェアエンジニア。1983年にリリースされたLisaの虜になり、ハードウェア解析にのめり込む。

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