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第30話 未来の医療と、治癒と自律の調和

著者: 三宅 琢

第30話 未来の医療と、治癒と自律の調和

※本コラムは「Mac Fan 2023年2月号」に掲載されたものです。

2022年10月に開催された第76回日本臨床眼科学会で、「視覚障害者のICT活用、未来医療と新しいビジョンケア」というタイトルでシンポジストを担当しました。私が医者としてICTを活用し始めて早10年、眼科の学会でICT活用をテーマにシンポジウムが開催されたことは、眼科医療全体がテクノロジーとの融合に期待している証明と言えます。そこで今回は、私が学会で発表した内容も踏まえて、未来の医療はどうあるべきかについて紹介したいと思います。

「未来の医療」というフレーズを聞いて、皆さんはどのような風景が浮かびますか? 血圧や血中酸素濃度だけでなく、さまざまな生体情報が常時モニタリングされ、異常値を計測した際に適切なタイミングで必要な医療を受けるようApple Watchがリマインドしてくれるかもしれません。また、病院の入り口を通過する際にAIによる問診を受け、必要な部位が自動でスキャンされたあと、診察室ではホログラムで表示された海外の著名な医師が自動翻訳を介して日本語を話しているかもしれません。そもそも「病院で受診する」という概念すらなくなり、地域格差も、言葉の壁も感じることなく、誰もが最良な医療を受けられる未来も夢の話ではないと、私は思っています。

技術的進歩により、これまで見落とされて重症化してきた多くの病気が早期に発見されるようになることで、人類全体の寿命はさらに延びるでしょう。

一方で、平均寿命が世界一長い超高齢社会である日本では、幸福度が低く将来に希望が持てず、さらにはコロナ禍にも見舞われ、社会的孤立や自殺が問題となっています。物理的に豊かであるにもかかわらず、SNS等の外的情報に心を乱されて精神的に貧困を感じやすい現代人にとって、「ビジョンケア」とは単に視機能を上げることではなく、希望の持てる未来(ビジョン)を見えるようにすることです。テクノロジーの発展により便利な生活を手に入れた我々は、その力で健康を可視化して自分らしく生きるための準備を始める時代だと言えます。

現代医療を用いても克服することができないことの1つに老化現象が挙げられますが、以前本連載でも紹介したITエバンジェリスト・若宮正子さんのように耳が遠く、目が悪く、記憶力が低下してもテクノロジーで翼を得て、人生を全力で楽しんでいる人も存在します。「人生100年時代」にはテクノロジーによる治癒を目指した適切な治療と、テクノロジーを活用した自律(自らの意志で人生を選択する力)のケアの両立と、その調和が必要であると私は考えます。

ダイエットの成功には「体重計に乗る習慣」が一番重要と言われますが、まずは睡眠や運動量等を可視化して自分の健康状態を意識することがケアの始まりです。

特定のことを意識し始めると、日常の中でそのことに関する情報が自然と目に留まるようになる「カラーバス効果」という現象があります。アップルウォッチは運動量、睡眠、心拍数、心電図、月経周期、マインドフルネスなど自分の健康状態を可視化し、ケアするためのデータをモニタリングできます。

自律した楽しく豊かな一生を送るためには、「健康を管理し、ケアするのは自分である」という主体性の回復が非常に重要です。医療の世界がテクノロジーによるケアに関心を持ち始めた今、テクノロジーで心を病ませるのではなく、健康の可視化を行い、自分らしく人生を楽しみ続けるためのツールとして活用してみてはいかがでしょうか。

テクノロジーを悪魔にするか天使にするかは、あなた次第。

著者プロフィール

三宅 琢

三宅 琢

医師・医学博士、眼科専門医、労働衛生コンサルタント、メンタルヘルス法務主任者。株式会社Studio Gift Hands 代表取締役。医師免許を持って活動するマルチフィールドコンサルタント。主な活動領域は、(1)iOS端末を用いた障害者への就労・就学支援、(2)企業の産業保健・ヘルスケア法務顧問、(3)遊べる病院「Vision Park」(2018年グッドデザイン賞受賞)のコンセプトディレクター、運営責任者などを中心に、医療・福祉・教育・ビジネス・エンタメ領域を越境的に活動している。また東京大学において、健診データ活用、行動変容、支援機器活用関連の研究室に所属する客員研究員としても活動中。主な著書として、管理職向けメンタル・モチベーションマネジメント本である『マネジメントはがんばらないほどうまくいく』(クロスメディア・パブリッシング)や歌集・童話『向日葵と僕』(パブリック・ブレイン)などがある。

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