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第24話 “正解探し”をやめた理由

著者: 三宅 琢

第24話 “正解探し”をやめた理由

※本コラムは「Mac Fan 2022年7月号」に掲載されたものです。

私は社会医という立場で越境的に活動することで、各分野の専門家や当事者との対話をとおして、現代社会が抱える課題を解決するための“気づき”を処方しています。課題が複雑化しやすい現在、多くの人に共通する“絶対的な解答”がないことに気づき始めている一方で、具体的な課題解決の方法が見出せないでいるとも言えます。今回は社会医として、今年3月に実施したwell-beingの実践家パッチ・アダムス医師と各分野の専門家との対話イベントをとおして、私自身が得た言葉の処方箋を皆さんに共有しましょう。

私が扱う社会の課題には、教育分野での不登校児やいじめの問題、産業保健分野での労働者のメンタル不調やハラスメント問題、福祉分野におけるスタッフ離職や利用者虐待、家庭内での育児放棄や配偶者暴力などが挙げられます。一見するとまったく関連性がないように見える各課題ですが、実は学校の教師と生徒、職場の上司と部下、施設のスタッフと利用者、家庭の親と子という固有名詞を外して考えることで多くの共通項を見出すことができます。

共通する内容としては、心理学者のアルフレッド・アドラー氏の言葉にあるように、他人や自分自身との関係性を含めた対人関係に起因するケースと、本来の目的を失った学則や就業規則などの制度や仕組みと個人の適正ミスマッチに起因するケースが多いように感じます。世界中から見学者が絶えない理想郷のような介護施設「あおいけあ」の代表である加藤忠相氏は、施設の運営方針を利用者やスタッフ間も含めて人間関係がよくなることを最上位目標として方針の意思決定を行ってきたそうです。また宿題や本質的ではない校則をなくすなど、教育改革の実践家である横浜創英中学・高等学校の工藤勇一校長は、子どもも大人も最上位目標を明確にしたうえで対話を繰り返すことの重要性を度々語っていました。

私が先述のイベントを通じて学んだ一番大きな気づきは、教育・医療・福祉・家族が、そもそも誰のために、そして何のために存在するのかという問いを立てることの重要さです。たとえば、私は障害者にiPhoneなどのテクノロジーの情報を処方したり、希望を見出せない患者同士が出会い、つながる、遊べる病院をデザインしたりしていますが、自分がやっていることが本当に医療なのか? 医者として行う活動として正しいのだろうか?と不安になった時期がありました。

しかし医療の最上位目標は「病の治癒」ではなく、病や障害があっても、人がその人らしく幸せに生きていけることであると気づくことができました。その点において考えれば、私が実践してきた遊べる病院の運営や、元気な患者を同じ疾患の悩める患者に紹介するという関係性の処方なども、すべて適切な医療であったと言えます。

世界最高齢のプログラマー・若宮正子氏は、「人生は長く生きていると常識なんて何回も変わる。すべては流動的で一時的な存在です」と言っていました。変わりゆく常識の中では、正しさや正解も流動的。可変的な常識に縛られるのではなく、普遍的で本質的な存在意義に対する適切な問いを立てられることが、他人の意見や常識に翻弄されることなく、激動の時代をwell-beingに生きていくために必要になるかもしれません。

3月の対話イベントはオンラインでしたが、今年6月には日本にパッチ・ダムス氏を招致し、対話するイベントを企画しています。人生には皆に共通した正解もレシピも存在しません。世界一非常識な医師との出会いで、あなたの人生の最適な問いが見つかるかもしれません。

人生のレシピに、正解はない。あなたはどう食べたい?

著者プロフィール

三宅 琢

三宅 琢

医師・医学博士、眼科専門医、労働衛生コンサルタント、メンタルヘルス法務主任者。株式会社Studio Gift Hands 代表取締役。医師免許を持って活動するマルチフィールドコンサルタント。主な活動領域は、(1)iOS端末を用いた障害者への就労・就学支援、(2)企業の産業保健・ヘルスケア法務顧問、(3)遊べる病院「Vision Park」(2018年グッドデザイン賞受賞)のコンセプトディレクター、運営責任者などを中心に、医療・福祉・教育・ビジネス・エンタメ領域を越境的に活動している。また東京大学において、健診データ活用、行動変容、支援機器活用関連の研究室に所属する客員研究員としても活動中。主な著書として、管理職向けメンタル・モチベーションマネジメント本である『マネジメントはがんばらないほどうまくいく』(クロスメディア・パブリッシング)や歌集・童話『向日葵と僕』(パブリック・ブレイン)などがある。

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