小さなデジタル大国エストニアは、なんとNATO軍のサイバーセキュリティを担っている。首都タリンの工科大学には世界唯一の「サイバーセキュリティ学部」があるなど、このフィールドにおいて常に世界をリードしてきた。今年9月には、EU圏の個人情報管理に関する、厳格なEU統一ルールを取りまとめた「タリン宣言」で議長国を務めた。
ネットの情報漏えい防止に関して自信があることから、エストニアは、政府、役所、企業、国民に関連するすべての情報の電子化を推進。国民全員にデジタルIDと呼ばれるICカードが配られ、健康保険や運転免許、交通機関の定期券や医療記録、さらには銀行ATMカードなどが一枚のデジタルIDに含まれている。
それらの国としての存在に関わる重要なデータは、一元管理するのではなく、世界トップの堅牢さを誇る特殊な暗号化技術を用い、各地のサーバに分散保存。さらに、ブロックチェーン的な最先端の改ざん防止手法を導入しているという。
さらに、この国はブッ飛んでいる。
2009年の登場以来、世間を賑わせ続け、昨今は確かな投資通貨として定着し、高騰を続けるビットコイン。エストニアは今年に入り、ビットコインとまったく同じ技術と概念を導入する仮想通貨「エストコイン」の発行を試みた。だが当然(笑)、「ユーロ以外の通貨は認めない」という方針の、ECの欧州中央銀行から激しい反対を受けることになる。
一番世間を驚かせたのは、「e-レジデンス制度」の導入だ。直訳すると「ネット居住権」、つまり「仮想国民」という意味。これは、オンライン上で申請でき、メールで「合格通知」を得たあと、各国のエストニア大使館でIDカードと専用USBカードリーダを取得できる。申請から受け取りまで、わずか1カ月ほどという。
このカードセットがあれば、オンラインでの簡単な手続きで、銀行口座開設も、起業も可能。しかも、ここまでエストニアに入国する必要もナシ。前号で紹介した20歳の起業家コンビ、千葉恵介と谷野龍之介は、つい先日、そのカードを使いエストニアで会社を興した。もちろん彼らの場合、エストニアが好きだということもあり、何度か訪れてはいるが。
国家としての「心臓部」がオンライン上に存在しているだけでなく、これら挑戦的な姿勢が、この国を「仮想国家」や「電子政府」と呼ばせるのである。人間の都合で勝手に引かれた、実はあまり根拠のない境界線「国境」。それによって分断され、さまざまな争いの原因となっている「物理的な領土」という概念をぶっ壊そうとする、この小さな国の大きな挑戦を、ぼくは心から応援したいと思う。
そして今回、実際にこの国を訪れて知ったことがいくつかある。自然がとても豊かで、国内農作物の多くがオーガニックであること。飲食店の食事の質は高く、物価が安いため、あらゆるものがリーズナブル。さらに、美人がとても多いので調べてみると、国民ひとりあたりのスーパーモデル輩出率が世界一!という。
ぼくはこの国を、欧州での移動生活の拠点の一つにしようと心に決めている。

※この記事は『Mac Fan 2018年1月号』に掲載されたものです。
著者プロフィール

四角大輔
作家/森の生活者/環境保護アンバサダー。ニュージーランド湖畔の森でサステナブルな自給自足ライフを営み、場所・時間・お金に縛られず、組織や制度に依存しない生き方を構築。レコード会社プロデューサー時代に、10回のミリオンヒットを記録。Greenpeace JapanとFairtrade Japanの日本人初アンバサダー、環境省アンバサダーを務める。会員制コミュニティ〈LifestyleDesign.Camp〉主宰。ポッドキャスト〈noiseless world〉ナビゲーター。『超ミニマル・ライフ』『超ミニマル主義』『人生やらなくていいリスト』『自由であり続けるために 20代で捨てるべき50のこと』『バックパッキング登山大全』など著書多数。