TECHNOLOGY FOCUS(2)
グラフィックス性能を大幅アップさせる「eGPU」テクノロジーの活用
パワー不足を補填
4K動画編集、VRコンテンツ、リッチな3Dゲームなど、近ごろ話題のトピックには大きなグラフィックス性能が要求されるものがとても多い。MacBookプロなどのノート型Macは、サイズの都合でデスクトップマシンのようなハイエンドのグラフィックスカードを積めないので、どうしてもパワーの面で不利になりやすい。そんな状況を劇的に改善できるのが「eGPU」というテクノロジーだ。MacBookプロに搭載されているサンダーボルト3ポートは、40Gbpsという非常に高速な仕様のため、外付けハードとしてデスクトップマシンと同じ高性能なグラフィックカードを接続することで、処理速度の向上や複数ディスプレイへの出力など、グラフィックス面での大きなパワーアップが可能だ。eGPUはmacOSハイシエラ(10・13・4)で利用可能となり、特にプロの映像クリエイターなどの間では大きな話題となっている。
半ば“アップル公式”
そして、新MacBookプロと同時に発表されたのが、廉価ながら高性能な映像制作機器で知られるブラックマジックデザイン社の「ブラックマジックeGPU(Blackmagic eGPU)」。アップルストアで販売され、半ば「公式」的な位置づけとなっている。eGPU製品は、拡張ボックスとグラフィックカードが別売りのものが多く、ハード内部を開けての取り付け操作に不慣れな人も多いMacユーザには少々ハードルの高い印象があった。一方、ブラックマジックeGPUは、高性能なグラフィックスカードの「ラデオン・プロ580」があらかじめセットされているので、サンダーボルト3ケーブルの接続だけですぐ使用できる。本体には2つのサンダーボルト3ポートに加え、映像出力用のHDMIポートや4つのUSB3.0ポートを備え、さらにMacBookプロに85ワットの電力供給を行えるので、据え置きの拡張ハブとしても利用可能だ。
今回は、新MacBookプロ(13インチモデル)にブラックマジックeGPU接続して検証してみた。ギークベンチによる計測では、ノーマルと比較して約3倍の非常に優秀なスコアが出た。
次に、ブラックマジックデザインのビデオ編集ソフト「ダヴィンチ・リゾルブ(DaVinci Resolve)」を使用し、トラック上の4Kビデオ素材にエフェクトを適用したうえで、新たな動画ファイルに書き出す時間を比較するテストを実行した。その結果、ノーマルで58秒かかった処理が27秒と約半分に。GPUのパワーが素直に反映される印象なので、ソフトが対応していればVRコンテンツやゲームなどにも力を発揮するだろう。eGPUはサンダーボルト3を装備した2016年以降のMacBookプロで使えるので、それらのユーザも導入する価値が大いにありそうだ。
Blackmagic eGPU
【発売】BlackMagic Design
【価格】8万9800円(税別)
【URL】https://www.blackmagicdesign.com/jp/products/blackmagicegpu/
「BlackMagic eGPU」はミニタワー型の筐体で、サイズ感としてはMac Proに近い。Thunderbolt 3ケーブル経由でMacBook Proに電力供給でき、4つのUSB 3.0やモニタ出力のHDMI端子も備える。
新13インチモデルに接続して、Geekbenchでグラフィックス性能を計測した結果。ノーマルの32780に対し、約3倍の108966と大幅にスコアが上昇している。15インチと比較しても倍近い、かなりのパワーを示している。
Blackmagic Designのビデオ編集ソフト「DaVinci Resolve」からの書き出し検証では、ノーマル時に58秒かかった処理が、eGPU併用では27秒と半分以下に。編集中のプレビュー表示も快適に行えた。
KEY FEATURE(3)[ アップルT2チップ ]
さまざまなコントローラを統合しよりセキュアな環境を実現
2つの役割
前モデルから筐体のデザインが変わらないため、一見目新しさがない今回の新MacBookプロ。だが、その中身はマイナーアップデート以上のものが含まれている。それを象徴するのが「アップルT2(以下、T2)」チップの採用だ。
アップル自身が開発を行っているこのMac用カスタムシリコンは、現在のデザインとなった2016年のMacBookプロから組み込みが始まっているが、今回のアップデートでは、iMacプロと同じ第2世代モデルへと更新された。
このTシリーズには大きく分けて2つの役割がある。通常ロジックボード上にあるコントローラといえばUSBなどの外部インターフェイスやストレージからのデータを統合し、CPUやメモリとのやりとりをサポート処理するPCH(プラットフォーム・コントローラー・ハブ)チップが代表的なものだが、Macにはこれ以外にもSMC(システム管理コントローラ)や画像信号プロセッサ、オーディオやSSDコントローラといったチップが存在する。
T2はこれらディスクリート(独立型単機能)コントローラを統合し、より高いパフォーマンスを出しながらPCHとシームレスに通信できるようにする。たとえば、タッチバーの描画はT2が担っているが、これによってGPUは従来どおりのパフォーマンスだけにリソースを割ける。ほかにもフェイスタイムカメラの制御や、新たに対応となった「Hey Siri」機能によってiOSデバイスと同じようにMacに話しかけるだけでSiriが利用できる。
堅牢なセキュリティ
もうひとつの重要な役割、それはセキュリティだ。Tシリーズには「Secure Enclaveコプロセッサ(以下、SE)」が用意されており、ここではタッチIDに登録された指紋データが格納・管理されている。これはiOSデバイスに搭載されているものと同じようにブラックボックス化され、生データを覗き見ることができないように設計されているのが特徴だ。
T2では、さらにSSDの暗号化もSEが担うことになり、より高速かつCPUに負荷がかからなくなった。これに加えて新たに加わった「セキュアブート機能」もサポートする。これは起動ディスクに指定されているOSをインターネットを通じて整合性を検証し、破損や予期しない改変によるデータの破損を防ぐものだ。また、USBメモリや外付けディスクからの外部起動を許可するかどうかを指定できる「起動セキュリティユーティリティ」も用意された。
こういった機能によって、今まで良くも悪くも「おおらか」だったMacの起動OSに対するセキュリティが、iOSと同じレベルまで制御できるようになった。つまり、高い信頼性が求められる環境でも、Macが使われることが増えていることを意味する。
ロジックボード上に配置されたApple T2チップ。その中身はApple WatchのCPUと同じSシリーズのカスタマイズモデルと目されており、内部ではコントローラ専用に特化された「bridgeOS」が動作している。レイアウトをチェックしてみると、ディスクリートコントローラ群を統率するT2はPCHに接続されていることが確認できる。チップセットの拡張機能のような立場にあるのだろう。 Photo●iFixit
T2搭載モデルのみ使える起動セキュリティユーティリティ。ファームウェアパスワード以外にも設定できる項目が用意されている。
外部ディスク起動を禁止すると、スタートアップディスクで警告表示が出てくる。また、ネットワークボリュームにも非対応だ。
KEY FEATURE(4)[ キーボード ]
静音化と耐久性が向上した第3世代バタフライ構造キーボード
2012年にレティナディスプレイモデルのMacBookプロが登場したときにもその薄さに驚かされたが、現在のデザインになったMacBookプロで「まだ薄くできるのか」と衝撃を受けた。
この薄さを支えているのがキーボードだ。2015年以前のモデルと比較して半分ほどの高さが確保できない環境を支えているのは、バタフライ構造と呼ばれるメカニズムである。これによる必要充分なキーストロークを確保しただけでなく、従来のシザー構造よりもより広い面で支えることにより、キーの安定性も4倍向上している。
そんなバタフライ構造のキーボードだが、その先進性ゆえに設計者の理想に近い形では製品化はできていなかったようだ。実際に「キーの押した音がうるさい」といった感覚的な部分や、耐久性が十分ではないといった問題が表面化しつつある。
第3世代となった今回は、静音化と耐久性の向上を積極的に行っており、打ち比べてみるとその信頼性はかなり実感できるレベルだ。これは製品の使い勝手に大きく影響する部分であり、この改善は評価したい。
キートップ部分をあらためて見ると、驚くほど薄い。その見た目は第2世代キーボードと同じだが、安定度が高まっているため打鍵感が向上している。キーボードの打ち方にもよるが、以前はカチャカチャしていたのに対し、第三世代ではやや静かに、耳につかない音質になっている。
新MacBook Proを分解したiFixitによると、キーキャップの下には埃やゴミの防塵機構と見られるシリコン膜がある。これにより静音化にもつながっていると思われる。 Photo●iFixit
KEY FEATURE(5)[ ディスプレイ ]
True Toneテクノロジーが自然にホワイトバランスを調整
MacBookシリーズを比較したときに、「ディスプレイ性能がどれくらい違うのか」というのは、「隠れた差別化」とも呼べるベンチマークだ。
その中でもっともわかりやすいのがレティナだろう。その画面で見る文字は印刷物と同じ美しさ、読みやすさを持つことから長時間眺めていても目が疲れにくいという人間工学的にも優れた特性を持つ。さらにMacBookプロでは「DCI│P3」規格のカラースペースをサポート。これは業務用のデジタルシネマ向けに開発されたものであり、白と黒のコントラストが広がっているだけでなく緑や赤といった色域はsRGB規格はもとより、MacBookと比較してもはっきりわかるほど鮮やか・忠実に再現できる。
加えてタッチバー搭載モデルは、T2チップによって制御されたフェイスタイムカメラが周囲の光が持つ色温度を計測。結果に合わせてディスプレイのホワイトバランスを自動的に調整してくれる「True Tone」テクノロジーを採用。iPadプロなどと同じように、より自然でインテリジェントなキャリブレーション機能が活用できる。
周辺光に合わせてディスプレイの色や明るさを自動調整するTrue Toneが採用されている。Appleの公式サイトで販売されているLG製ディスプレイや過去の純正ディスプレイにも対応。ただし、クラムシェルモード(Macの蓋を閉じた状態で利用すること)だとTrue Toneは利用できない。
FaceTimeカメラはApple T2チップによって制御されることで、ホワイトバランスのキャリブレーションも自動化された。
KEY FEATURE(6)[ メモリとSSD(CTOカスタマイズ) ]
プロユーザ向け環境を構築できる4TBのSSDオプション
近年はストレージがSSD化したことで速度が爆発的に向上し、メモリから溢れたデータを一時的にストレージに用意された「スワップ領域」へ書き出したとしても、さほどアプリの動作速度低下につながらなくなってきた。
しかし、高解像度の写真やビデオ編集、AR、VR、さらには機械学習を行うプロ向け環境として考えると話は別で、単一のアプリで16GB以上のメモリ領域を必要とするものも少なくない。その点において、15インチモデルが32GBまでアップグレードできることは重要だ。
これはストレージにおいても同様だろう。従来の最大2TBまでというのは、ビデオやオーディオを編集するユーザにとって明らかな要領不足で、より多くのサイズを求めるのであれば、速度面を犠牲にしながらでも外付けHDDに接続する必要があった。4TBのオプションが加わることは、プロの目線で見れば「期待どおり」ともいえる。
フルカスタマイズすると本体の値段が倍以上に跳ね上がってしまうが、こういったオプションはあくまでプロが対象である。だが、MacBookプロが本来思い描いていたはずのプロユーザに向けた仕様だと考えれば、これは「原点回帰」なのだ。
メモリの仕様も2133MHzのLPDDR3から、2400MHzのDDR4に変更。最大2.8倍の性能向上はこの恩恵も大きい。
CTOオプションに待望の4TBが追加。これでストレージ容量面では、iMac Proと互角に渡り合えることになる。
KEY FEATURE(7)[ Bluetooth 5.0 ]
消費電力を大幅に抑えて広範囲でペアリング可能
ブルートゥースは以前の4.2から変更になり、次世代モデルと呼ばれているバージョン5にハードウェアとして対応する。
バージョン4以降、一般的にはナンバリングを特徴として大きく宣伝はしない方向に進んでいる。というもの実は最大転送実効速度は、バージョン3以降24Mbpsのまま。注力されているのは転送速度の向上ではなく、消費電力を大幅に抑えたBLE(Bluetooth Low Energy)機能だ。
バージョン5でもこの路線を維持。BLEの転送速度は従来の最大1Mbpsから2Mbpsへと倍増されたものの、携帯通信規格LTEが最大150Mbpsで通信していることを考えると、その向上は微々たるものだ。
重要なのは到達距離で、理論上最大400メートルの範囲まで通信可能。これによってブルートゥースは「近くの周辺機器しかつながらない」規格ではなく「省電力デバイスなら広範囲でペアリング可能」なものへと進化することを目指している。
MacのWi-Fi、Bluetooth機能をサポートするワイヤレスカードは、特許抗争中のブロードコム製から中国のUSI(Universal Scientific Industrial)との共同設計に変更に。チップはロジックボード上に直接実装されており、Apple T2のセキュアブート機能で利用するために直接通信する配線が用意されている。 Photo●iFixit