アップルのロゴといえば、かじり跡のあるリンゴマークでお馴染みだ。しかし、実は創業以来、6回ものデザイン変更が行われてきた。つまり、全部で7種類のロゴが存在していることになる。なぜアップルは、これほど頻繁にロゴを変更するのだろうか。これが今回の疑問だ。
社名が入っていない珍しい企業ロゴ
アップルのロゴの珍しい特徴は、社名を表すテキストがどこにも入っていないことだ。いろいろな企業のロゴを見てもらえればわかるが、その多くがシンボルマークと社名テキストの組み合わせとなっている。
たとえば自動車メーカーの場合、車体に付けるエンブレムはマーク単体であることが多いものの、公式ロゴとして使われるのはマークと社名の組み合わせである場合がほとんど。かじり跡があるとはいえ、アップルのように単純なマークのみで世界中の人が社名を認識できるというのは、とてもすごいことなのだ。
だが、実はアップルは現在のロゴになるまでに、6回ものデザイン変更を行ってきている。なぜそれほど頻繁にロゴをアップデートするのか。その背景には、アップルが展開する製品との深い関連性がある。
革新性を強調した6色のレインボーロゴ
1976年、アップルはスティーブ・ウォズニアックが設計したワンボードマイコンApple Iを発売した。このとき、アップルの最初のロゴが制作されている。現在のデザインとはまったく異なり、「ニュートンのリンゴ」をモチーフにした古めかしいもので、「APPLE COMPUTER CO.」という社名が描かれていた。しかし、このロゴは約1年という短期間で変更されることになる。
1977年、アップルはいよいよ本格的なパーソナルコンピュータ・Apple Ⅱを発売する。このときにデザイナーのロブ・ジャノフが提案したのが、かじり跡のある6色のリンゴマークだ。これは当時、かなり掟破りのデザインだった。
まず、6色も使うのが当時ではあり得ないことだ。広告、パッケージのみならず、社用の封筒、便箋、あらゆるものがカラー印刷となり、コストがいちいち高くついてしまう。また、色が隣り合っているのも印刷職人泣かせだ。色の位置がほんの少しずれただけでもみっともないことになるため、色ずれが起こらないよう注意を払わなければならない。
では、なぜこのロゴは6色になったのか。それは、Apple Ⅱの最大のセールスポイントが「6色のカラー表示ができる」点だったからだ。Apple Ⅱの競合製品は、ほぼ同時期に発売されたタンディ社のTRS80とコモドール社のPET 2001で、いずれもモノクロ表示しかできなかった。6色表示というとあまりに低スペックに聞こえるかもしれないが、当時としては非常に革新的だったのだ。
このカラー表示によって、Apple Ⅱは当初ゲーム機としてよく売れ、やがてビジネスツールとしても広く使われるようになる。アップルにとって6色のロゴは、自社製品を世に強くアピールするものであり、当時から「最先端テクノロジー」を売りにしていたといえるのである。
初代iMac登場でロゴも転換期に
6色のレインボーロゴは、その後約21年間に渡り継続して使用された。そして1998年、ついに刷新された新しいロゴは、透明感のある青色が特徴のデザインだった。1998年といえば、アップルに復帰したスティーブ・ジョブズが、半透明デザインの初代iMacを発表して話題になった年である。
この初代iMac、中身はそれまでのMacとさほど変わっていない。しかし、外観デザインが劇的に鮮やかになり、さらに当時はまだ広く使われていたフロッピーディスクドライブを廃止するなど、未来を感じさせるものだった。口の悪い人はそれを「キャンディーの包み紙を変えただけ」とよく言ったものだ。
その批判はともかく、初代iMacのアピールポイントがその半透明の外観デザインにあったことは間違いない。そこで、ロゴもそのデザインに合わせたものに変更されたのだ。
ところが、このロゴはすぐに廃止され、黒1色のモノクローム版に変更される。当初iMacはボンダイブルー色のみが発売されていたが、すぐに「キャンディーカラー」と呼ばれる多色展開が行われた。そのため、ロゴがボンダイブルー色というのは体裁が悪いという判断があったのではないだろうか。鮮やかなキャンディーカラーの中にロゴを置くのであれば、黒1色のシンプルなデザインが好ましい。そういう考えだったのではないかと思う。
プロダクトによって質感も変わる
2001年、アップルはMac OS Xを発表する。Mac OS Xは、それまでとは一線を画す「AQUA(アクア)」と呼ばれるビジュアルテーマが使用されていた。ウインドウは金属フレームのようで、またボタンなどのパーツは透明感があり、カーソル選択すると水が満たされたかのように青くなる。「水滴」をイメージしたビジュアルだ。このアクアデザインに合わせて、4度目のロゴ変更が行われた。
そして2008年、再びロゴが変更され、今度はシルバーのメタリック調のものになった。この年に発表されたのは新型のMacBookだ。初期のMacBookは白いポリカーボネートボディだったが、この年からアルミニウムユニボディに一新された。これもまた、当時としては驚くべき技術であり、アルミを削り出すというのは高級腕時計の製造ぐらいにしか使われないものだと大きな話題となった。
OS連携が前提のフラットデザインへ
現在のグレー単色ロゴになったのは2013年。この年、アップルはフラットデザインを採用したiOS 7を発表している。これも、アップルにとって重大な転換であった。
それまでボタンは立体的で、押せば反応するということが直感的に理解できるものだったが、フラットデザインではボタンも平面的に一新された。押したくなるような工夫が必要になるため、UI/UXを再定義しなくてはならなくなる。アップルはこの統一感のあるフラットデザイン導入を機に、iOSとmacOSの連携をさらに推し進め、それは2018年となった現在でも進行中だ。
アップルは、製品コンセプトに大きな変革をするときにロゴを変えることで、そのことを広く知らしめてきた。現在のロゴは、もう5年続けて使われている。アップルは創業からの42年間で7つのロゴを使ってきているので、計算すると1つ平均6年間。もしかすると、今年、あるいは来年あたり、再びロゴを変えるような大きな変化が来るのかもしれない。
かじり跡のあるリンゴマークをデザインしたロブ・ジャノフのWEBページには、Appleのロゴの簡単な歴史が載っている。【URL】http://robjanoff.com/applelogo/
文●牧野武文
フリーライター。Apple Ⅱに施されたレインボーロゴは、実は製品名と一体化したデザインになってい る。この製品名部分を取り除くと、例のかじり跡がついたリンゴマークになるのだ。詳しく見たい方は、ぜひ 「Apple Ⅱ」で画像検索してみてほしい。