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まさに合体ロボだった初代StyleWriter

著者: 大谷和利

まさに合体ロボだった初代StyleWriter

ImageWriterの旧態化への対処

この連載でも触れてきたが、Appleはジョブズが復帰して製品ラインを絞り込むまで、さまざまな形で純正プリンタを周辺機器のラインアップに加えていた。確かに初代Macが登場した頃には、Appleの考えるコンピュータと出力機器の連携を実現できるようなプリンタは市場に存在していなかったため、ノウハウを持つ企業と共同で純正品を開発する必要があった。

しかし、'80年代が終わる頃にはサードパーティのプリンタメーカーも自前のマーケティングによってブランド力をつけ、独自製品を投入して評判を確立し、'90年代の半ばには、コンピュータメーカーがあえて純正品を用意する意味合いは薄れていった。したがって、当時どん底にあったAppleにおいて、ジョブズが限られたリソースを主力製品のコンピュータ開発に集中させる一方で、プリンタ事業を切り捨てたのは順当な判断だったといえる。

とはいえ、現在のMacBookの前身となったPowerBookシリーズが誕生した1991年頃は、ジョブズ不在とはいえAppleが新しいセグメントの製品開発に燃えていた時期でもあり、プリンタについても同様だった。というのは、インクリボンをワイヤーで紙に打ち付けて印字するため夜中には使えないほどの騒音を発するImageWriterシリーズは、さすがに旧態化しており、新たな普及型の純正プリンタが求められていたのである。

そして誕生したのが、モノクロ印刷専用ながら当時最先端だったキヤノン製のインクジェットプリントエンジンを搭載したStyleWriterだ。普及型とはいえ、360dpiという出力解像度は、初期のLaserWriterの300dpiを上回り、さらにTrueTypeと呼ばれるアウトラインフォント技術によって、フォントサイズによらずスムーズなテキスト印刷を可能としていた。それまでImageWriter IIを愛用していた僕も、発売と同時に購入して、その静音性と印字品質の高さに感動した覚えがある。

凝りに凝った構造と機構

StyleWriterは縦型の斬新なデザインで、場所を取らずに設置できるのも魅力だった。このスリムなフォルムを実現するために、排紙トレーは本体下のスペースに折りたたまれて収納でき、給紙メカニズムはユニット化されて脱着可能となっていた。

なぜなら、StyleWriterでは奥行きを詰めるために、給紙がかなりの急角度で行われる。薄手の印刷用紙であれば、そのまま給紙できるが、厚手の紙や封筒などを印刷する際には給紙ユニットを外して水平に直挿しし、紙詰まりを防止するように考えられていたのである。

この合体ロボのような構造は、当然ながら開発・製造現場を悩ませることになった。そのため、当時のAppleのデザイナーが内部設計を担当するキヤノンに常駐する形でプロジェクトが進められ、両者の密接な連携によって発生する問題に対処していった。

このように、デザイナーが現場に出向いて調整を行うのは他企業でも珍しくないが、Appleの場合、まったく新規製品の場合には、デザイン部門のトップのジョナサン・アイブや、CEOになる前にサプライチェーンを管轄していたティム・クックなども数カ月も中国の工場に詰めて指導にあたったりしていた。こうしたApple気質は、時代を超えて存在していたようだ。

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