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可能性を拡張する問いを立てる力

著者: 福田弘徳

可能性を拡張する問いを立てる力

「クリエイティビティを解き放とう」。アップルのWEBサイト「アップルと教育」の最初に出てくるメッセージである。今春シカゴで行われたアップルのイベントは教育市場にフォーカスした内容で、教育向けの新しいプログラムが続々と発表された。その中のひとつ「Everyone Can Create」は、すべての科目にクリエイティブな表現を取り入れるための新しいカリキュラムで、この秋にリリース予定である。

日本の教育現場でもICT化の促進やプログラミング的思考の習得など、学習スタイルに変革が求められている。クリエイティビティは、これからの社会を生き抜くための重要なスキルであり、それをいかに育てるかがこれからの教育現場でもっとも大事なことではないかと思う。

ビジネスの現場でも重要視されている能力のひとつであるクリエイティビティは、イノベーションを起こすために必要な要素とされている。しかし、クリエイティビティとは何か?と考えてみると、しっかりとした定義がなく、非常に曖昧なスキルという印象ではないだろうか。

日本語に翻訳すると、創造性や独創性といった言葉に置き換えられるが、具体的にどのようなスキルなのかわかりにくい。人によってさまざまな解釈があり、抽象度の高い言葉である。映画やアニメーション、話題の広告メディアなど、一流のクリエイターが持っている生まれ持ったスキルという印象もあるが、私は違うと思う。クリエイティビティは、「問いを立てる力」だ。

問題解決能力は社会を生き抜く術として重要とされる。しかし、立てた問い次第で導き出される答えは変わるので、間違った課題設定をしてしまえば、正しい答えを導き出すことはできない。問いを立てる力、つまり課題設定の始まりは、「なぜ気づかなかったのだろう」という当たり前のことを、他の人よりも先に気づくことである。

課題とは、理想と現実のギャップから生まれるものだ。どうやって理想を描くかを考え始めると、何よりも自分自身の体験がきっかけとして必要になる。こうありたいと思う環境を作ること、その環境で得る体験こそが理想と現実のギャップを可視化する。教育現場におけるiPad導入やスウィフト・プレイグラウンド(Swift Playgrounds)のようなプログラミング学習のツールなども、そういった体験環境を作ることを目指したものでなければならない。

また、インターネットで必要な情報が何かを検索するうえでも、検索結果を読み解くうえでも、「問いを立てる力」は必要だ。教育機関の中にはiPadに機能制限やコンテンツフィルタリングをかけ、子どもたちのインターネット利用を制限しているところも多い。だが、子どもたちに情報リテラシーを身につけてもらい、新しいことを学ぶ意欲や好奇心を持ってもらいたいなら、iPadの機能制限は最低限であることが望ましい。

教育現場のICT化の本質はタブレット導入でもデジタル教科書でもない。テクノロジーを利用する目的は、あくまで「問いを立てる力」を身につけることを補助するためのものだ。プログラミング的思考をカリキュラムに盛り込むのも、問題解決の手法のひとつを学ぶことに過ぎない。

子どもたちの「問いを立てる力」を養うことこそが教育現場で重要なことであり、同時にクリエイティビティを育むことが問いの可能性を広げ、社会のさまざまな問題を解決し、変革を起こす原動力となる。iPadの活用やプログラミング的思考のようなテクノロジーを活用するのは、問いを考えるプロセスを楽しむため。まずは、そこから始めよう。

©dizain

Hironori Fukuda

企業や教育機関向けのApple製品の活用提案や導入・運用構築を手がける株式会社Tooのモビリティ・エバンジェリスト。【URL】www.too.com/apple