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祝・初代Macのアップグレード

著者: 大谷和利

祝・初代Macのアップグレード

うれしい驚きのアップグレード

今、macOSでもiOSでも、あるいはtvOSでもwatchOSでも、AppleのOSのアップデートは無料で提供されていて、ユーザはそれが当たり前だと思っている。

しかし、実はMacintoshに関しては、Mac OS Xになってからもしばらくの間、バージョンアップは有償だった。無償化されたのは、2013年にリリースされたOS X Mavericksからで、それ以前には新バージョンにするだけで1万円以上かかることもあったのだ。

iOSにしても、まだiPhone OSと呼ばれていた初期の頃には、iPhoneユーザのバージョンアップは無償でも、iPod touchのユーザは有償というように扱いが異なっていた。

有償にせよ無償にせよ、デバイスを買い換えずにアップグレードという手段によって最新機能が使えるようになるのは、ソフトウェアならではのメリットだ。

ところが、Appleはかつて、有償ながらハードウェアにもアップグレードの道を用意していた。古くは、Apple IIのときにも機能拡張されたApple IIeへのアップグレードキットを販売したり、非常にレアなケースとしては、マルチメディア対応が図られ筐体デザインもまったく異なるApple IIGSの機能をApple IIeに与えるアップグレードサービスも行っていた。

したがって、Appleにとっては、1984年発売の初代Macintoshに対しても、翌1985年にデビューした上位機種のMacintosh 512や、1986年に登場したMacintosh Plusへのアップグレードを用意するのは当然の流れだったのかもしれない。だが、それまでの日本製品しか知らなかった僕にとっては、コンピュータのハードウェアにアップグレードサービスがあるということ自体が驚きだった。

愛着 vs. 損得

今でこそ、スマートフォンなどは、1~2年ごとに買い換えて、古いものは下取りや買取りサービスに出しても何とも思わない人が多いが、当時のユーザは、皆、購入したマシンへの愛着や思い入れが大きかった。そのため、新型機を買っても旧機種は手放さず、コレクション状態となる場合も少なくなかった。当然ながらもし今使っている愛機が、そのまま最新機種と同じ機能になるなら、まっさらな新品に買い換えるよりも好ましいと思うユーザも、そこそこ存在していた。

それでも、アップグレードサービスを受けるかどうかを決めるうえでは、大きな壁があった。それは価格であり、たとえばMacintosh Plusへのアップグレードキットの値段はその新品を買うのとあまり変わらなかったのだ。

僕が自分で初めて購入したMacintoshはPlusだったが、当時知人と運営していた会社のマシンが初代Macintoshであり、「では、これをどうするか?」というジレンマに直面したことはある。結局、新品購入ではなく、それをアップグレードすることにしたのだが、その理由は、初代Macの特徴であるアップルロゴだけが付いたフロントケース(Plusのフロントには製品名も入る)が残るから、というマニアックなものだった。

僕は、Apple Watchに関して、この頃のように有償でもアップグレードサービスが行われないものかと期待し、それを記事にしたこともある。しかし、残念ながら、さすがのAppleも、もうそのように粋で悠長なビジネスを行う時代ではなくなっていたようだ。