2020年に向かって日本は大きく変わろうとしている。今、東京はどの街を訪れても建築ラッシュだ。建物が変われば、街を往来する車も変わる。先日開催された東京モーターショーではトヨタ社がこの年の実現を目指す燃料電池バスや低床ワゴン型で室内空間にこだわった次世代のタクシーを展示していた。
同社は自動運転の実現にも積極的だ。「ハイウェイチームメイト」という技術で、2020年に一部の高速道路から自動運転を実用化。そして2020年代前半、市街地の自動運転を「アーバンチームメイト」という技術で実現。今後発売する自動運転車はソフトウェアアップデートで対応する。
2020年、私がもっとも期待している変化は教育の改革だ。日本は大学入試を頂点にした偏った教育システムがつくられ、多くの子どもたちがAI全盛の時代に価値のない知識偏重の教育に大事な時間を奪われている。2020年、ついにこの大学入試制度が大きく変わり、「学習指導要領」も大幅に改定される。要領の総則には「豊かな創造性を備え持続可能な社会の創り手となることが期待される児童に、生きる力を育むことを目指す」という文言がある。つまり、これまでのように「何を学ぶか」に重点が置くのではなく「何ができるようになるか」を重視する。これは期待が持てる。
ただし、実際に教育にあたる教職者たちは日々の業務に追われそれどころではないだろう。そんな教員たちが、この指導要領をどのようにカタチ化するかは気になるところだ。一方、「知識獲得」よりも「生き方」のほうが大事な時代、子ども達を学校任せ、塾任せにするのがそもそも間違いという見方もできる。
2020年に向かってテクノロジーの進化もさらに加速する。ここ数年で急に聞く頻度の増えた「AI」は、これから毎日聞く言葉になるだろう。これまではアプリを使うことが主体だったスマートフォンも、これからはAIを使う道具にシフトしていく。なかなかヒット商品の出ないIoTも、価格が下がり少しずつ広まっていくかもしれない。ソーシャルメディアは、これから会話のやりとりに加え金銭のやりとりも可能になり、その便利さから人々の依存度を高める一方で、危険度も増していく。
この2020年という特異点の前に懸念していることが2つある。
1つは今、起こそうとしている変化がそもそもなぜ必要なのか吟味されているケースが少ないこと。大抵は売上の向上や顧客の増加といった“現状より良い”といった指標に基づいて推し進められていて、本当に長期的に良いかまでは吟味されていない。それでは、だいぶ無責任だ。
今年はじめ、「キュレーションメディア」の問題が取り沙汰された。それ以前にも数多くのITサービスで、儲かるが倫理性を欠く問題があった。そうしたサービスを正しく起動するのに必要なのは経営者の「美意識」という指標しかないと思っている。この点については今年話題となった山口周氏の著書『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』を読んでいただきたい。
もう1つは、変化の全体像を見つめる人の少なさだ。皆、自分の所属する業界や興味のあるジャンルの変化には多少の知識があるが、周辺の業界にまでは目が及ばない。筆者のツイッターアカウント@nobiではテクノロジー関係のツイートも、ファッション、アート、デザイン、医療のツイートも行っているが、多ジャンルの話題を横断的に見ている人は少なそうである。これでは世の中は細切れに因数分解されたジャンルの進化を寄せ集めたツギハギだらけの未来を迎えてしまう。
これを正すにはルーチンな毎日を繰り返すのではなく、日々の生活に少しでも空き時間を見つけて、それまで自分が踏み出していなかった領域への一歩を踏み出してもらうしかない。
Nobuyuki Hayashi
aka Nobi/デザインエンジニアを育てる教育プログラムを運営するジェームス ダイソン財団理事でグッドデザイン賞審査員。世の中の風景を変えるテクノロジーとデザインを取材し、執筆や講演、コンサルティング活動を通して広げる活動家。主な著書は『iPhoneショック』ほか多数。