インテル社は11月6日、AMD社製Radeon GPUを統合した第8世代のモバイル向Core Hプロセッサを発表した。同社の方向転換とその背景、そして今後のMacへの採用の可能性について考えたい。
驚愕のライバル統合チップ
インテルが今回発表したのは、第8世代コア(Core)プロセッサの中で15インチMacBookプロシリーズなどに搭載可能なTDP47Wクラスのモバイル向けプロセッサ「Hシリーズ」。業界を驚かせたのは、そのプロセッサチップ上にAMDラデオン(Radeon)テクノロジーグループが開発したラデオンベースのモバイルGPUが搭載されていた点だ。
AMDはCPU市場においてインテルと直接競合するライバルであり、その歴史はi80386プロセッサのライセンスを巡って争われた30年前にまでさかのぼる。最近ではAMDの新プロセッサ「ライゼン(Ryzen)」シリーズが、そのメニーコア戦略とコストパフォーマンスの高さで、寡占状態にあったインテルのコアプロセッサ市場を脅かしつつある。そのライバルが開発したGPUをインテルが自社製品に組み込んだことが業界に驚きをもって迎えられたのだ。
同プロセッサに統合されているGPUの詳細スペックは公表されていないものの、「エンスージアスト(熱狂的な支持者)向けのディスクリートGPU」とされていることから、ラデオン・プロ(Radeon Pro)などに代表されるハイエンドクラスのモバイルGPUだと推測される。
さらにこのプロセッサにはビデオメモリとして最新のHBM2メモリも同時にスタッキング実装されており、GPUとHBM2の接続には新開発のEMIB(Embedded Multi-Die Interconnect Bridge)が、またCPUとGPU間には新しく設計されたチューニング可能な電源共有フレームワークが採用されており、温度・電力供給・性能をリアルタイムに管理すると同時に、処理内容に応じて両者のパワーバランスを柔軟にチューニングすることもできるように設計されているという。
現在のMacBook Pro 15インチモデルではCPUのほかに別チップでGPU(Radeon Pro)とビデオメモリ(GDDR5)を搭載している(赤枠で囲った範囲)が、新プロセッサではこれらがすべてCPUパッケージ上に搭載されるため、基板上の信号配線も含めて大幅にスペースを削減できる。Photo/iFixit.com
登場は2018Q1か?
この新しいプロセッサを搭載した製品は2018年の第一四半期に登場するとされており、早ければ来年の春にはこれを搭載したMacBookプロが登場する可能性がある。現行のMacBookプロには第7世代コアHプロセッサと、ラデオン・プロ500シリーズおよびGDDR5ビデオメモリが採用されているが、この新しい第8世代コアH(Core H)はこれらすべてをワンチップで搭載しており、大幅なスペースの削減とより高度な省電力化が可能となる。
さらに、今後同様の統合プロセッサがUシリーズやSシリーズにも展開されれば、13インチMacBookプロや21インチiMacにもより強力なGPUが搭載される可能性がある。パワフルなGPUを搭載することは、macOSに搭載されるコンピュータグラフィックス用API「メタル(Metal)2」によるVR環境のリアリティを向上するのみならず、その高い演算性能を活かしてニューラルネットワークなどの機械学習処理のアクセラレーションも可能となる。このプロセッサの登場は、Macの今後の方向性にも大きなインパクトを与えることになるだろう。
EMIBはインテルが開発した新しいパッケージ技術で、高価なTSV(貫通シリコンビア)インターポーザを使用する代わりに、2つのダイを接続するのに必要最小限のシリコンサブスレートをパッケージPCB(基板)に埋め込むことで、比較的低価格で広帯域接続を実現する。【URL】https://www.intel.com/content/www/us/en/foundry/emib.html
リリースされた第8世代Core Hプロセッサのパッケージイメージ。右からCPUダイ、GPUダイ、HBM2スタッキングダイ。第7世代Core Hに比べて若干横方向に長くなっているが、フットプリント(専有面積)は数十%しか増大していない。【URL】https://newsroom.intel.com/