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第5世代の移動通信システム5G – LTE

著者: 今井隆

第5世代の移動通信システム5G – LTE

読む前に覚えておきたい用語

5G(第5世代移動通信システム)

「IMT-2020」とも呼ばれ、2020年頃の実用化を目指して研究および技術開発が進められている次世代の無線通信システム。3GPPやITU-Rなど標準化団体の主導によってそのコンセプトが定められ、通信関連企業や研究機関によって技術開発が行われており、2020年の実用化を目指している。

4G(第4世代移動通信システム)

4Gとは現在主流となっている移動通信システムの略称で、ITU(国際電気通信連合)が定める「IMT-Advanced」に準拠する無線通信システムのことを指す。主に150Mbps以上の通信速度を求めている。日本では3GPPが標準化した「LTE Advanced」の名称で呼ばれることが多い。

LTE(Long Term Evolution)

LTEは「Long Term Evolution」の略で3Gと4Gの中間的な位置づけであることから当初3.9G(第3.9世代)と呼ばれていたが、現在は「4G」を名乗ることがITUでも認められている。最大20MHzの帯域幅を用いることで、下り100Mbps以上、上り50Mbps以上の通信速度を実現する。

5Gが掲げる高い性能目標とその課題

5Gは2020年の実用化を目標に各国で取り込みが行われている第5世代移動通信システムで、現在の4G/LTEに代わる次世代の移動通信インフラだ。従来の携帯電話からスマートフォンへの急速な移行は、移動通信システムに求められる通信速度を大きく引き上げる原動力となった。2G(第2世代)の数百kbpsから3G(第3世代)では数Mbpsへ、さらにLTEや4G(第4世代)では百Mbpsを越える通信速度へと、移動通信システムはこの10年あまりの間におよそ千倍程度に高速化されてきた。第5世代はさらにその先を目指す移動通信システムであり、単に通信速度に留まらず、さまざまな点で従来の移動通信システムの問題点を解決する。

5Gには「1000倍の大容量化」「100倍以上の高速通信」「1ミリ秒以下の低遅延と高信頼性」「100倍の接続機器数」「低コスト・省電力化」といった厳しい性能目標が定められている。これらを実現するためには、新たな無線技術の導入のみならず基地局からの通信データを処理するコアネットワークの広帯域化と高速処理能力が必須となる。

無線通信速度の高速化に対しては、新たな周波数帯の開拓が必要不可欠だ。現在の1000倍の情報量を伝達するにはより広い周波数幅が必要だが、現在利用されている3GHz以下の周波数帯はそのほとんどが割り当て済みとなっているため、そこに新たに広帯域を確保することは難しい。そこで5Gでは単一の周波数帯の電波のみを使うのではなく、幅広い周波数帯を複数組み合わせて利用し、利用状況に合わせて最適な帯域を確保することで周波数利用効率を向上しつつ安定した通信環境を実現することを目指している。

さらに、3.6GHz以上の未使用周波数帯を複数確保し、そこでの広帯域通信により大幅な通信速度の向上を目指す。現在、日本国内では3.6GHz帯、4.5GHz帯、28GHz帯の3つの帯域がその候補として浮上しており、総務省の電波政策2020懇談会で検討されている。一方、国際レベルではITU(国際電気通信連合)が運用するWRC(世界無線通信会議)で標準化推進を行っており、2019年10月に開催されるWRC-19にて5G専用周波数帯の特定が完了する見込みだ。

周波数利用効率の向上に対しては、非直交多元接続(NOMA=Non-Orthogonal Multiple Access)と呼ばれる電力ドメインを使って複数ユーザの信号重畳を行う方法が検討されている。これは4G/LTEで使用されているOFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple Access)を拡張して電力ドメインを多重化に用いる技術で、スマートフォンなどの信号処理能力の向上によって実現可能となった技術だ。

また、同時に複数のアンテナを用いて空間多重化により通信速度を向上するMIMOも大幅に強化され、「マッシブMIMO(Massive MIMO)」と呼ばれる超多素子のアクティブアンテナを用いた同時接続数の向上と、ビームフォーミングによる干渉低減も実現される見込みだ。特に5Gで拡張されるミリ波帯の周波数はアンテナの小型化が可能なことからMIMOとの相性が良く、アンテナのアレイ化による受信感度向上も期待できる。

低遅延および高信頼については、現状の4G/LTEでは数十ミリ秒程度の低伝送遅延が実現されているものの、デバイスの遠隔操作、たとえば遠隔医療や自動運転での事故回避などにはまだ改善が求められている。このような用途も踏まえて5Gの無線通信では1ミリ秒以下の伝送遅延と99・999パーセント以上の信頼性が要求されている。この厳しい要求事項もミリ波帯での実証実験が進められており、実現の目処が立ちつつあるとされている。ただし、この要求はすべての用途(アプリケーション)に求められるものではないため、特定用途向けのオプションとして設定される可能性もある。

省電力化はあらゆる産業や社会において重要視されており、性能の向上に伴う消費電力や部品コストの増加は認められないのが今の社会的風潮だ。移動通信においても同様で、高速化の代償として端末のバッテリ駆動時間が短くなったり、端末のコストが上昇することは市場的にも受け入れられない。また、通信システム全体の省電力化も、通信事業者のシステム運用のコスト低減のために欠かせない。電力やコストについては現時点で具体的な数値目標が掲げられているわけではないものの、総じて現行の4G/LTEと同等か、それ以下を目指すことが求められている。

5G推進ロードマップ

総務省が2015年6月にまとめた「第5世代移動通信システム推進ロードマップ」では、ITUをはじめとする国際的な5G推進の動きと連携を取りつつ、官民共同で世界に先駆けて5Gの実用化を目指すロードマップが提示されている。【URL】http://kiai.gr.jp/jigyou/h27/PDF/0626p1.pdf

Massive MIMO(Multi Input Multi Output)の原理

4G/LTEやWi-Fiで用いられているMIMO(Multi Input Multi Output)技術を発展させたもので、数百個のアンテナアレイを用いて同一空間多重伝送を行い、スループットの向上を大きく引き上げる。同時にビームフォーミングで指向性を制御することで干渉も減らすことが可能。【URL】https://www.softbank.jp/corp/set/data/group/sbm/news/conference/pdf/material/20160908_01.pdf

動き出したキャリアと部品ベンダー

国内ではNTTドコモが2010年から5Gの検討を開始しており、その要素技術の確立やNECや富士通などとの対応装置の共同開発を行ってきた。最近では5月にお台場(東京臨海副都心地区)および東京スカイ売りータウン周辺で「5Gトライアルサイト」と称したサービスを開始し、4Kネットワークカメラ6台の映像をリアルタイムに伝送するライブ配信デモを実施した。

一方で半導体メーカーの5G対応も進んでいる。昨年10月にクアルコム社は世界初となる5Gモデムソリューション「スナップドラゴンX50 5Gモデム(Snapdragon X50 5G Modem)」を他社に先駆けて発表。今年中のサンプル出荷を予定している。また、インテル社も今年1月のCES 2017で5G対応モデムセットを発表、より高速かつ多くの周波数帯に対応する製品を年内にサンプル出荷すると発表しており、5G環境へのチップベンダーの開発競争は激化している。

その一方で課題が残るのが実際の用途だ。現在のスマートフォンやタブレットが求めるニーズに対しては、4G/LTEはそのスペックでほぼ目的を果たしており、これ以上の高速化を求める動きはそれほど大きくはない。むしろ最近ではNVMOの普及に代表されるように、低コストニーズが高まっておりキャリアやメーカーの方向性と市場のニーズとは必ずしも一致しているとは言い難い。また、最近ではAR(拡張現実)やVR(仮想現実)などリッチコンテンツの利用を促す動きが盛んだが、まだ一般に普及していない。

しかし、それでも自動運転のための車載情報収集機器や、遠隔医療操作などの最先端分野では移動通信の高速化のニーズが強いこともまた事実であり、特定の用途では5Gの実用化が切望されていることは間違いない。つまり5Gの成功は技術的な課題の解決もさることながら、その市場ニーズをどれだけ創出できるかに掛かっている、と言っても過言ではないだろう。

非直交多元接続(NOMA: Non-Orthogonal Multiple Access)

4G/LTEで用いられているOFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple Access)は周波数ドメイン、時間ドメインによる多重化伝送によりスループットを改善するが、NOMAはこれに加えて電力ドメインの多重化によりさらなるスループット向上を目指す技術だ。

超多素子アクティブアンテナシステム

NECが開発した5G向けの28GHz帯基地局用超多素子アクティブアンテナシステム。微細なアンテナエレメントを約5mm間隔で高密度実装し、フルデジタル制御方式による高精度なビーム形成を実現する。LTEに対して20倍以上の周波数利用効率を実証したという。

インテルの5Gチップ

インテル社は5Gに必要なモデム関連チップの開発を進めており、すでに28GHz帯と6GHz以下の周波数をサポートするモデム「Goldridge」や同RFICトランシーバ「Monumental Summit」および「Segula Peak」などの開発を終え、年内のサンプル出荷を予定している(写真はGoldridge)。

今井 隆

IT機器の設計歴30年を越えるハードウェアエンジニア。1983年にリリースされたLisaの虜になり、ハードウェア解析にのめり込む。