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先進的なオフィスでなぜMacが選ばれるの?

著者: 牧野武文

先進的なオフィスでなぜMacが選ばれるの?

最近は会社での働き方を変革する動きが盛んで、オフィス環境も変化しているようだ。

中には、毎日異なる席に座って仕事をする「フリーアドレス制」を導入した企業も増えている。

そのような先進的なオフィスを見学すると、アップル製品をITツールとして採用している例が多い。

では、なぜこうした先進的な企業がアップル製品を採用するのか。

これが今回の疑問だ。

快適な場所で仕事をする

近年、先進的とされる企業でよく目にするのがフリーアドレス制度だ。固定のデスクをやめ、オフィスをカフェのような快適な空間にして座る場所を毎日変えるというものだ。場合によっては、自宅や本当のカフェで仕事をしてもいいという制度になっていることが多い。そうした企業の多くは、ITツールとしてアップル製品を採用していることが多い。理由は簡単だ。アップル製品にはフリーアドレス制に適した機能が用意されているからだ。

その機能の代表的なものはアイクラウドによる連係だ。フリーアドレスオフィスでは、社員はあちこちに移動する。よくあるのが3つの場所を使い分ける方法で、1つは 「その日のデスク」で、MacBookを開いて通常の業務をこなす。もう1つは「集中デスク」で、がっつりと集中して仕事をこなしたいときは、パーティションで区切られて周りの動きが目に入らないデスク?人によっては会議室や廊下の隅でもよい?にMacBookを持ち込み、集中して仕事を片づける。

このとき「おやすみモード」をオンにして、MacBookの通知もすべてオフにするTipsは以前この連載でも紹介した。この機能は英語版macOSでは「Do not Disturb」となっていて、「おやすみモード」よりも「邪魔しないでモード」とか「集中モード」というニュアンスに近い。もともと、こうした短い集中作業のために想定されていたのではないだろうか。

このほかに「リラックスできる場所」も必要だ。資料を読んだり、漠然と全体像について考えるときは、ソファスペースのような場所が向いている。つまり、フリーアドレスとは自由席のことだけではなく、仕事ごとにもっとも適した場所に移動して業務効率を上げるという“社内ノマド”的な働き方なのだ。

このように社内を移動しながら仕事をする場合、アイクラウドの機能は強力だ。設定をオンにしておくだけで、連絡先、カレンダー、リマインダなどのデータを自動的にMacBookとiPhone、iPadで同期してくれる。さらに、アイクラウド・ドライブをオンにしておくと、よくあるクラウドストレージのようにデバイス間で共有できる。

エアドロップで会議の生産性が上がる

次に「エアドロップ(AirDrop)」だが、これは本来アップルデバイスを使っているユーザ同士で、手軽にファイルをやりとりする仕組みだ。企業内でファイルを直接デバイス間でやりとりするのはセキュリティポリシー上の問題もあるだろうが、これはむしろ自分のアップルデバイス間でのやりとりに便利な機能なのだ。

たとえば私の場合は、取材先でiPhoneで撮影した写真をエアドロップでMacに転送して仕事用フォルダの中にまとめて入れてしまう。この仕事用フォルダは、仕事が完了するまでアイクラウド・ドライブにも入れておくので、iPhoneやiPadからいつでも見られる。また、長めの資料を読まなければならないときは、MacからiPadやiPhoneにエアドロップで転送しておく。資料を読むときは楽な姿勢で読んだほうが頭に入るので、ソファーに移動してiPadなどで読んでいる。

特に便利なのが、Macのサファリで読んでいたWEBのURLをiPhoneやiPadにエアドロップで送ってしまうやり方だ。会議や打ち合わせなどでは、iPhoneやMacBookでWEBを調べながら議論をするのは当たり前の光景になっている。このとき、ほかのメンバーにエアドロップ経由でURLを送ると議論が進む。

もっと使われていいハンドオフの欠点

そして意外に活用されていないのが、ハンドオフ(Handoff)だ。これはアップルデバイス間で、やりかけの仕事を引き継げる機能。サファリ、メール、メッセージ、メモなどの基本ソフトはもちろん、ページズ、ナンバーズ、キーノートや、面白いところではフールー(Hulu)なども対応している。

特に便利なのが、離席をするときにMacからiPhoneやiPadに作業を引き継ぐ場合だ。具体的には、画面の広いMacでWEBを検索し、内容をじっくりと読むときにデスクを離れてソファスペースでお茶でも飲みながらiPhoneで読むといったシーン。あるいは、iPhoneでメールの返事を書き始めたが、書類を添付したり長めの説明が必要なため、デスクに戻ってMacでメールの続きを書く場合。また、Macでマップを検索して、そのままiPhoneを持って外出する場合などで便利に使える。このほかにも業務に合わせて場所を移動するときには、さまざまな使い方が考えられるはずだ。

ただし、ハンドオフがあまり活用されない原因ではないかと疑っているのは使い勝手にちょっとしたコツが必要な点だ。まず、iPhone、iPad側でホームボタンを押してロック画面を表示すると、左下にハンドオフのアイコンが現れる。これを上方向にスワイプするとハンドオフでMacの作業が引き継げるのだが、多くの人はホームボタンを押して指をそのままホームボタンに置いたままにするのではないだろうか。ほぼワンアクションでロック画面表示、タッチIDをクリアできるからだ。しかし、このやり方だとハンドオフのアイコンが現れてもすぐタッチID画面になってしまうため、ハンドオフアイコンをスワイプする暇がないのだ。

対策としては、1つはホームボタンを押してスリープ解除してロック画面を表示させるのではなく、電源ボタンを押してスリープ解除する方法だ。これであれば、ロック画面の段階で止まっているので、落ち着いてハンドオフアイコンをスワイプできる。

もう1つの方法は、iPhoneのスリープは解除して、ホームボタンを2度押ししてアプリスイッチャを表示させる方法だ。すると、アプリスイッチャの下部にハンドオフアイコンが現れるので、これをタップ、または上にスワイプすればいい。

しかし、もっと簡単にならないのかと思う。たとえば、ハンドオフ専用のアプリを作ってもらって、それを普通のアプリと同じようにタップすればハンドオフの内容が引き継げるとか方法はいろいろあるだろう。優秀なエンジニアであれば30分もかからない仕事だと思うのだが、アップルがAPIを公開していないとか別の事情でもあるのだろうか。

ハンドオフに関してはまだ使い勝手が悪い部分もあるが、アイクラウド、エアドロップ、ハンドオフによるアップルデバイスの連係機能は強力だ。しかも、フリーアドレスで移動しながら仕事をする人を明らかに想定している機能でもある。だからこそ、フリーアドレスを採用する先進的な企業では、アップル製品を用いている例が多いし、用いるべきだろう。

通知センターで下にスライドすると現れる「おやすみモード」のスイッチ。寝るときに使うのではなく、通知に邪魔されずに集中したいときに使う「Do not Disturb」モードが本来の役割だろう。

エアドロップで便利なのが、見ているWEBのURLを他人に送る使い方。各自がWi-Fiとブルートゥースをオンにし、エアドロップを受け入れる設定(連絡先のみ、またはすべて)にする必要があるが、もっとも手軽な方法だ。外出先ではともかく、会議室やオフィス内であればセキュリティ上の問題も生じない。

ハンドオフで便利なのが、出かける前にマップで目的地の経路探索をするとき。Macの広い画面、キーボードから地名を入れて経路探索をし、そのままiPhoneでハンドオフをすると、経路まで含めてiPhoneにマップが表示される。

ハンドオフを使うには、ロック画面で左下に現れるハンドオフアイコンを上にスワイプさせるのが一般的だが、操作のスタイルによっては使いにくいことがある。ホーム画面からアプリスイッチャを開き、下に表示されるハンドオフのバーをタップするか上にスワイプするほうが簡単だろう。

【知恵の実の実】

Macユーザならアイクラウドはぜひ活用したい。アイクラウド・ドライブのフォルダに入れておくだけで、iPhone、iPadから閲覧、編集ができるようになる。PDF書類の閲覧や校正(赤字入れ)は、Mac基本ソフトのプレビューでできるので使わない手はない。

【知恵の実の実】

以前のiOSでは、アプリスイッチャ画面の一番左側のウインドウにハンドオフで引き継いだアプリが表示されていた。複数のアプリを多数起ち上げているときに、このウインドウまで移動するのが手間がかかるので変更されたのではないだろうか。

文●牧野武文

フリーライター。アップルだけでなく、イノベーションはハードウェアではなくソフトウェアやサービスに完全に移っている。ハードウェアは進化が止まったのではなく、進化する必要性が薄れてきているのだ。